私に届いたBBCからの取材依頼

レポーターのモビーン・アザー氏は『文春』に対して、こう答えている。

「取材中、彼は突然泣き始めました。ごめんなさい、ごめんなさいと謝り続けたんです。ハヤシさんや発言した人たちには、何も謝る必要はなく、恥ずかしいことは何もないと、ここで明言したい。沈黙を打ち破り、体験を伝えてくれる人々の勇気がなければ、この番組は成り立たなかった」

彼らの勇気ある発言があってこそ、ジャニー喜多川氏の少年たちへの「性虐待」を、世界で初めて取り上げたテレビ番組になったのである。

実は、私は1年以上前からBBCのプロデューサーから協力を頼まれ、無い知恵を絞って、多少の協力をしてきた人間の一人である。

BBCのプロデューサー、ナンシー・ロバーツ氏から以下のようなメールをもらったのは、2022年3月3日だった。

1時間番組を制作することになり、そのための取材に着手したところです。喜多川氏による性虐待は、歴史上もっとも重大な事件の一つであるとみています。2019年の喜多川氏の死と世界的に広がる#MeToo運動、米ハリウッドの巨匠ハーヴィー・ワインスタイン(原文のママ)の有罪判決も重なって、今まさにこの問題について再検証するべきだと考えています。放送は2022年後半を目指しています。撮影自体は2022年夏頃になる見込みです。

カメラの前で話してくれる証言者を探していた

この件に関して何らかの情報を共有してくださる方や、インタビューを受けてくださる関係者の方にご連絡しています。そこで、元木様とお電話・テレビ電話で、お話をお聞きすることはできないでしょうか? 私どものリサーチ中に、『プレジデント』に掲載された元木様の記事を拝見しました。元木様の記事の内容がとても興味深く、日本のメディア内でもこの事件について取り上げている数少ないレポートであり、お話を伺うことができれば幸いです。
ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

彼女が読んだプレジデントオンラインの記事とは、2019年7月23日に掲載された〈ジャニーズの暗部に触れないメディアの罪〉であろう。

何度かのメールのやりとりの後、テレビ電話でロバーツ氏と話したのは、5月13日の夕刻だった。

彼女は流暢な日本語を話した。

ロバーツ氏によれば、だいぶ前からジャニー喜多川氏について取り上げようと考えてきたという。

参考になる告発本は全部読み込んでいた。だが、実際、カメラの前で話してくれる証言者を見つけることが思いのほか難航したようで、コロナ禍もあって延びてしまったが、今回を逃すとできなくなると考え、取材を開始したそうだ。