なぜ日本を代表する出版社が圧力に屈したのか

彼女が関心を持ったのは、私が『週刊現代』時代にジャニー喜多川氏の性癖について初めて取り上げた1981年4月30日号の、「『たのきんトリオ』で大当たり 喜多川姉弟の異能」という記事。

そのためにジャニーズ事務所から「講談社の雑誌にはうちのタレントを出さない」と通告され、会社側は事務所側に屈服して、私は『婦人倶楽部』編集部に突然異動させられてしまった。

なぜ、日本を代表する出版社が、一芸能プロの圧力に屈してしまったのか。社内で問題にならなかったのか。なぜ、他のマスコミはこの件を取り上げなかったのか。ロバーツ氏は矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。

私は、日本の総合出版社というのは、ジャーナリズムを扱う雑誌はほとんどなくて、少年少女向けの雑誌やマンガ、女性誌がドル箱のため、どうしても時代の人気アイドルを使わざるを得ない“弱味”がある。そこを突かれたため和解せざるをえなかったのだと説明した。

しかし、このことでジャニーズ事務所は、テレビはもちろんのこと、出版社もこの手で操れると考え、それが延々続いてきたのだ。

『週刊文春』がジャニー喜多川氏の性加害問題を取り上げる1999年10月まで、20年近くこの問題は、マスコミでタブーになってきた。しかし、『文春』が報じた後も、新聞、テレビはもちろんのこと、他社の週刊誌もこの問題を取り上げることはほとんどなかった。

新聞と雑誌スタンド
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取材で彼女から投げかけられた“難問”

このようなことを昨年8月31日、池袋のジュンク堂書店でインタビュアーを相手に1時間近く話したが、顔がテレビ向きではないと判断されたのだろう、カットされてしまった。

ロバーツ氏とは2人とも見ていた、日本でもネットフリックスで配信されている歌手マイケル・ジャクソンの幼児性的虐待疑惑に迫ったドキュメンタリー『Leaving Neverland(邦題:ネバーランドにさよならを)』(日本では2019年6月配信開始)の話にもなった。

これは、ドキュメンタリーではなくフェイクドキュメンタリーだという批判もあるが、私が見た限りでは、幼い頃にマイケルから性的虐待を受けたとする男性2人が、赤裸々に当時のことを語っている衝撃的なものである。

ロバーツ氏も、ジャニー喜多川氏に性的虐待を受けた男性の告白が取りたい、そうすれば、すごいドキュメンタリーになるといった。

さらに彼女から、日本では男性から性的虐待を受けた被害者が、なぜ、声を上げないのかと聞かれた。

これは難問だ。伊藤詩織さんの例を持ち出すまでもなく、女性が男性から性的被害を受けたと自ら声を上げることも日本では難しい。ハリウッドでは大物プロデューサーのワインスタインのセクハラを、多くの女優たちが告発し、#MeToo運動へと広がっていったが、日本ではこの運動はまだまだ広がりを見せてはいない。