自分の常識は、外の世界では非常識
それでは、支店を移り変わりながら経験を積むような場合はどうでしょうか。実はこの場合は会社としての常識はそのままに、ただ土地や人間関係を移るだけですから、真の「越境教育」とはなりません。
もちろんリテールをやっていた人がホールセールに行くとか、業務部でオペレーションの効率化に携わるなど、まったく異なる業務に本格的に挑戦するならば話は別です。ただ、社内調整的に「足りないところに人を移動させる」くらいのローテーションや、場所を移動するレベルの転勤を何年も経験するくらいなら、いっそ外の世界を体験するほうが、よほど「ポータブルスキル」に結びつくはずです。
特にシニア層で、新しい職場に馴染めないケースには、「自分の常識は、外の世界では非常識」を知らずに生きてきた人が多いのです。スキルもある、知識もある、経験もある。だけど外の世界の価値観を知らない。異なる世代の感覚に無頓着。自分とは異なる思考法や、仕事の進め方が世の中にあることを知らない(あるいは気づいても無視していいと思ってしまっている)……など。自分のこれまでの経験に固執する人は、まず会社の外では生きていけません。
「井の中の蛙」だと気づくのは早い方がいい
昨今では、欧米式の「ジョブ・ディスクリプション」(職務記述書)を導入する企業も増えてきています。雇用者と被雇用者が、仕事の範囲や内容、必要とするスキルを確認したうえで仕事に入る形が一般化するならば、「ポータブルスキル」を明確にすることはますます必要になっていくでしょう。若いうちに、自分が井の中の蛙であること、所属する企業名が外れれば世間の人の反応が目に見えてぞんざいになること、他には他のやり方や優先順位があることなどを経験できた人は、その後確実に成長していきます。自分のスキルとして書き込める経験を増やすためにも、まずは副業や社外留学、出向やプロボノ(専門のスキルや知識を使った無償の社会貢献)などの、「越境教育」に積極的に手を挙げていってください。