「孤独だった」法廷で繰り返したロシアスパイの言い訳

うち8件の罪状をスミス氏は認めたが、個人情報と機密情報の漏洩により人々を故意に危険に陥れようとしたとの指摘については否認した。

氏は法廷で、酒に依存する日々を送っていたと強調し、数々の犯行時はいずれもアルコールの影響下にあったと主張している。

ウクライナ人の妻に逃げられ、「落ち込み気味で孤独であったかもしれない」ため、1日に最大7パイント(約4リットル)の酒をあおってやり過ごしたという。

判事は厳しかった。ガーディアン紙によると主張に対し、「個人的な憂鬱ゆううつと、国を裏切ることとのあいだに、論理的な因果関係は認められない」と一蹴している。

今年2月、13年2カ月の懲役刑が言い渡された。

妻に逃げられ、酒に溺れ、スパイに居場所を求めた男の末路

大胆不敵にもイギリス大使館を拠点にスパイ活動を行っていたスミス氏だが、まさか自分の元にスパイが差し向けられるとは予想していなかったのだろう。

隠し撮りの手法で大使館内の情報を収集し、職員の自宅住所や機密情報をロシア側に流出させていたスミス氏は、最終的には自らの悪行が隠しカメラに収められたことでお縄についた。

今年2月に結審した公判の過程では、酒の勢いのせいにしたり、あるいは矛盾した供述を重ねたりと、反省の色に乏しかったようだ。ガーディアン紙によると、判事はスミス氏を「まったくもって信頼に足らない」と形容している。

自宅からは数百ユーロ(数万円程度)の現金が押収されたが、13年余りの刑期に見合うだけの報酬は得ていなかったようだ。動機はむしろイギリスへの恨みにあったようだが、なぜ逆恨みを生じたのか、その子細が法廷で明かされることはなかったという。

大使館の私物ロッカーからは、ナチスの軍服を着たドイツのメルケル元首相の肩に、プーチン氏が手を回している絵も押収された。スミス氏はプーチン氏に傾倒するあまり、西側諸国へのむなしい敵対心をいつしか募らせていたのかもしれない。

妻に逃げられて酒に溺れ、虚しい人生を埋めるかのようにロシアスパイとして居場所を求めた男は、わずか数年でその正体を露見させた。人生の13年余りを塀のなかで過ごすこととなった。

まるで映画のようなMI5によるスパイ捕縛作戦だが、こうしたスパイによる情報戦が世界中で繰り広げられている。もちろん日本も例外ではないだろう。

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