イギリス大使館に潜り込んでいたロシアのスパイ

今年2月、イギリス大使館を拠点に活動していたロシアスパイに13年2カ月の実刑判決が言い渡された。

英BBCによると男は、英スコットランド出身のデービッド・バランタイン・スミス氏だ。大胆にも大使館のセキュリティの要であるべき警備室に巣くい、機密情報を収集してはロシア側に流していた。

スミス氏は在ベルリン英国大使館で、警備員として4年間勤務していた。その立場を利用して館内をうろつき、会議室に残された機密情報や職員の個人情報を集め回っていたという。

ベルリンの英国大使館(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
ベルリンの英国大使館(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

英ガーディアン紙によると、スミス氏は用心深く、収集したデータは「ベルリン休暇の写真」との偽ラベルを貼ったUSBメモリなどに保管していたという。こうしたデータや大使館の入館証の運用を示した手紙などを、ロシア将校に送っていた。

人知れず数年間もロシアに“尽くした”スミス氏だが、その裏切りは綿密な国際作戦によりついに白日の下にさらされることとなる。

逮捕の決め手となったのは、イギリス情報局保安部(MI5)とドイツ当局が共同で仕掛けた、2件のおとり作戦だった。

大使館員が気づいた不審な郵便物

勤勉なスミス氏が初めての疑念の対象となったのは、2020年11月のことだった。

あるイギリス大使館員は、同大使館が差し出した公式の郵便物であるかのように偽装した手紙を発見した。調べたところ差出人は、大使館の警備担当のスミス氏となっている。

開封して中をあらためたところ、果たしてその内容は、在ベルリン・ロシア大使館の軍事担当であるセルゲイ・チュクロフ少将に宛てた極秘の通信であることが明らかとなった。

英当局はスミス氏がロシアに通じているのではないかとの疑念を募らせ、ドイツ警察と連携した国際作戦のもと、エサを撒いて氏の反応を伺う手立てを講じた。翌2021年の8月に決行されたこの偽装作戦に、ターゲットのスミス氏は見事に食いつくこととなる。