また、西側からの供与に加え、ウクライナ領内で鹵獲したロシア戦車もウクライナ軍の戦車数を補塡している。CNNはオリックスの発表を基に、ウクライナが500両以上のロシア戦車を鹵獲していることから、これはウクライナが失った459両を補って余りあると報じている。
ロシアの戦車については、数だけでなく質の問題も指摘されている。
開戦後の早い段階で、被弾時に砲塔が飛び出してしまう「ジャック・イン・ザ・ボックス(びっくり箱)」と呼ばれる欠陥があることが知られるようになった。これは対戦車兵器の攻撃を受けた際、内部に搭載した弾薬が誘爆し、砲塔がびっくり箱のように上部に完全に飛び出してしまうというものだ。
衛生兵が戦車を操縦するほどの兵士不足
軍事情報サイトの「ソフリプ」は昨年5月、「かつて世界最高の軍隊と謳われたロシア軍だが、隣国によって深刻な弱点と欠陥があることが露呈した」と報じている。
通信の不手際、杜撰な計画、兵站の問題と並び、ロシア軍の「もうひとつのアキレス腱」になっていると同記事は指摘する。
記事は「ロシアは戦車を設計する際、砲塔部分に弾薬を配置するという悪い癖がある」とし、内部の設計に不備があると指摘した。ウクライナ側は当時からこの弱点を認識し、攻撃に活用していたという。
兵士の不足から、運用面でも限界が来ているようだ。ニューヨーク・タイムズ紙は今年3月1日、精鋭部隊の多くが「壊滅的な打撃」を受け、知識のない専門外の兵士がその欠員を埋めていると報じた。
ウクライナ側が戦車を捕らえたところ、運転席に座っていたのは、配置転換された衛生兵だったという。このように「専門性の欠如がロシア軍を苦しめるようになった」と同紙は指摘する。
世界から見放されたプーチンの誤算
西側諸国の支援を得てウクライナが反転攻勢に出ている現状、地上戦の主力となる戦車の不足はロシア側にとって大きな痛手だ。
戦車は攻勢を強めるだけの存在ではなく、獲得した領土の維持にも欠かすことができない。レオパルト2などの供与を受けたウクライナは春から攻勢を強めるとの観測があり、ロシア側はこれを迎え撃つのに従来よりも苦慮する可能性があるだろう。
侵略に対抗するウクライナ側も相当な苦境にあることは確かだが、唯一の戦車工場が月産20両と頼りないロシアとは異なり、国際的な支援の恩恵を受けている。戦車の確保という観点では、一定の優位を確保したと言えるだろう。
一方でロシアは、自ら仕掛けた戦争で苦汁をなめ、その軍隊は衛生兵に戦車の操縦を委ねるほどの混乱に陥っている。大量に抱えた旧型戦車の在庫に依存しながら当面は急場を乗り切ることが予想されるが、もはやキーウ攻略と言える状況ではなくなってきている。
じりじりと追いやられる現状を見るに、プーチン大統領は、自ら描いた未来予想図とは遠い地点に妥協を迫られる展開となりそうだ。