なぜ当初の想定よりも悪化していないのか

ウクライナ危機が発生した直後、経済専門家の間では「ロシア経済が破綻するのではないか」と悲観的な見方が多かった。その背景の一つとして、米国や欧州委員会などは国際資金決済システムである“SWIFT(スウィフト)”から、多くのロシアの民間銀行を排除したことがあった。それ以外にも制裁があり、ロシアの経済と金融活動は混乱し、GDPは急速にマイナスに転落するとの予想は増えた。

ロシアのプーチン大統領(=2023年2月8日、モスクワ・クレムリン)
写真=EPA/時事通信フォト
ロシアのプーチン大統領(=2023年2月8日、モスクワ・クレムリン)

しかし、その後の展開を見ると、ロシア経済は当初の想定ほど悪化していない。背景の一つに、中国やインドなどがロシア産原油などを輸入していることは大きい。ロシアが原油を売ることができれば、国全体としての収入は大きく減ることはない。その一方、制裁の影響もあり、自動車や半導体など欲しいものを輸入することができない。その結果、GDPのマイナスは小幅に収まっている。

ただ、中長期的に考えると、ロシア経済の先行きはかなり不安だ。ロシアでは、人々の生活に必要なモノやサービスを供給することは一段と難しくなるだろう。すでに自動車の生産は大きく減少している。SNSを通して人々の不満も増幅されやすくなる。長い目で見るとロシア経済の縮小均衡は避けられないだろう。

デフォルトの懸念が大きく高まったはずが…

2022年4月、世界銀行は同年のロシアの実質GDP成長率を-11.2%と予想した。また同月、ロシア中銀はその年の実質GDP成長率を-8.0%~-10.0%と予想した。大幅なマイナス成長予想の背景には、いくつかの要因があった。

まず、金融、経済面からの制裁の懸念は大きかった。SWIFTからの排除によってロシアの主要な民間銀行はドルを基軸通貨とする国際金融システムから切り離された。それによって、ロシア企業や政府の対外債務の支払いは難航し、デフォルトに陥るとの懸念は大きく高まった。

昨年2月下旬、ロシアでは銀行の信用不安が高まり、外貨の預金を引き下ろすために銀行に長蛇の列ができた。そうした心理は個人消費の減少にもつながり、企業の収益を減少させる。また、地政学リスクへの対応や社会の公器としての責任を果たすために、マクドナルドなどの海外企業はロシアから撤退した。

旧ソ連崩壊後、ロシアは、基本的には、オリガルヒ(新興財閥)と呼ばれる企業グループを中心に、エネルギー資源の掘削や鉄鋼などの重工業化を加速させた。一方、日用品の販売や飲食などの分野では海外企業を誘致し、雇用機会が生み出された。そのため、当初は制裁によってロシア経済にかなりの打撃が生じるとの見方が急速に増えた。