「To darling my mama(私の愛するママへ)……」
イギリスの新国王となったチャールズ3世(73)は、9月9日に初のテレビ演説を行い、母親の故エリザベス女王(享年96)に対して呼びかけ、感謝の気持ちを述べた。
このあまりにも有名な母親と息子は、ただの親子ではない。大英帝国の女王とその世継ぎであり、我々庶民からは伺いしれない複雑な関係だった。
女王である母は息子が一番愛情を欲した時期に公務優先であまりそばにおらず、一方の息子は、女王の意に背き、カミラ妃(75)との不倫やダイアナ元妃との離婚により国民から大きな反感を買った。1997年、ダイアナ元妃がパリで事故死した時(享年36)、王室最大の危機を迎えたと言われ、息子は長らく最も人気がない王室メンバーでもあった。この“親子であって親子でない”ような2人の軌跡を、故エリザベス女王の熱烈なファンである筆者が現地に住む人々の証言を基に紐解いてみたい。
逝去直前、静養先のバルモラル城周辺は安穏としていた
筆者は、女王が亡くなる2週間前に、静養先のスコットランド・アバディーンシャーにある「バルモラル城」の近辺を訪れていた。この城はロイヤルファミリーがいない時期であれば、一般人でも内部に入り見学ができる。8月は女王が滞在するので見学はできない。正門の近くまで行くか、城の周囲の森の中の道を散歩するか、それぐらいだ。「もしかしたら女王が散歩に出て、運がよければ、お姿をちらっと拝見することができるかもしれない」と下心を持っていた。そして、これが生前の女王を拝見する最後のチャンスになるかもしれないとも。
筆者が、小学生の頃、女王は来日した(1975年)。テレビで彼女の姿が映される度、なんと気高い女性なのだろうと心を打たれたものだ。すでに女王は50歳近い年齢ではあったが、子供ながらに、女王の“凛”とした美しさにノックアウトされていた。周りの同級生にそれを伝えてもまるで理解されなかったけれど……。
あれから半世紀近く経ち、筆者は来日当時の女王の歳を超え、はるばる極東からバルモラル城近くにやって来た。勢い立って来たものの、観光客らしき人々が門の前で記念撮影をし、城の周辺は銃を持った2人の守衛が門前に立っているだけ。ずいぶんと呑気な警備体制だと拍子抜けがした。門の近くにはコーヒーショップがあり「女王がここを通ることがあるのか?」とスタッフに聞いたところ、「さあ、出てくるかも知れないし、出てこないかも知れない」と、想定通りの答えが。結果的に女王の姿を拝見することができなかった。
しかし、これだけユルい雰囲気だから、女王の病状が深刻とは思われない。この夏がダメでも、クリスマスのご静養の時期にまたイギリスに来れば、拝顔するチャンスがあるかも知れないと楽観視していた。