月刊誌「ファクタ」でオリンパスによる損失隠しの実態を暴き、3月に「雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞した山口義正氏。水面下で内部告発者とパイプを築くとともに、財務諸表を丹念に分析することで特報をモノにした。

山口氏は日本経済新聞出身で、同紙在籍時には証券部で企業財務や資本市場を取材。日本公社債研究所(現・格付投資情報センター)でアナリストとして働いたこともある。本人が「オリンパスのバランスシートに異常を見つけるうえでアナリスト経験が役立った」と振り返るように、専門性を生かすことで調査報道のお手本を示したといえる。

経緯はエンロンに酷似
大手紙は黙殺

山口氏によるオリンパス事件の報道は、2001年に米史上最大級の粉飾決算発覚で経営破綻したエネルギー大手エンロンをめぐる報道と酷似している。

オリンパス事件をスクープした会員制の月刊誌「ファクタ」。

エンロン事件では、経済誌「フォーチュン」の記者ベサニー・マクリーン氏が最初に粉飾決算の可能性を指摘。しかし企業側から全面否定され、取材協力も得られなかった。最初の数カ月は、大新聞がファクタのオリンパス報道を無視したように、エンロン事件でもマクリーン氏の初報を追いかけるメディアはなかなか現れなかった。

さらには、山口氏と同様にマクリーン氏はバランスシートなど企業の公開情報を分析するのを得意としている。フォーチュン誌の記者になる前には投資銀行ゴールドマン・サックスに勤務。そこで培った分析能力を生かし、エンロンの財務諸表をしらみつぶしに調べ、エンロンが粉飾決算によって株価をつり上げている可能性を指摘したのである。