日経記者とライバル紙記者が匿名だから明かせる「不都合な事実」。読むものを戦慄させる日経の「ワケありの実態」とは何か?

喜多社長に記者の声が届かない

「喜多恒雄社長のもとに、現場の記者の声が直接届く機会なんてほとんどないのです。雑誌で書かれれば、社長も読んでくれるはず。話せることは何でも話します。あえて厳しく書いてほしいぐらいです。よくも悪くも存在感があった前の社長が交代して、おとなしい喜多さんになったのですが、びっくりするぐらい記者の体質は変わっていません。新しいことをしようと、みんな口には出すのですが、実際には前例を踏襲しているだけです。これまでのやり方が変えられないのは『日経病』と自覚しています。入社して数年で知らず知らずのうちに染まってしまいます」

今回、ビジネスマンの必読紙である「日本経済新聞」を取材するにあたり、日経記者、そして日頃ライバル関係にある他紙の新聞記者に連続してインタビューした。

そこで浮き彫りになったのは、日経記者の自社への健全な批判精神だ。他紙の記者が日経へ「うらやましい」「すごい」と称賛をおしまない一方で、日経の記者それぞれが問題意識を抱えている。冒頭の発言は、日経の生活情報部記者A氏のものだが「日経を厳しく書いてくれ」と、多くの日経記者が口にした。

「上層部が、記者に何を求めるか、と公の場で答えを求められれば、企画の面白さ、取材力と答えるのでしょうが、実際は、スクープです。もう1にも2にも3にも4にも5にも6にも、とにかくスクープ。徹底的にスクープ至上主義です」(日経記者B氏)

企画の切り口や取材力では、客観的な評価がしにくい。目に見える形での成果を求めることが、大きな組織を動かすうえでのコツなのか。

「モニターによる閲読率の調査で、90%を超えたと言われても、そんなに沢山の人が読んでいるはずはないと思っています。客観的な評価というのは永遠の課題です。やはりスクープというのは、仕事をしているかどうかという意味でわかりやすい指標なのは間違いない」(日経デスクC氏)

日経がスクープに執着する本当の理由とは何なのだろうか。

「日経記者は、その日のマーケットにインパクトを与える。それだけが使命なんです」

と、不敵に笑うのは、時事通信社記者D氏だ。D氏に日経のスクープについて聞いた。

「人数かけて取材さえしっかりすれば、スクープをとるのは簡単です。例えば、担当する企業の広報から取締役会議の日程を聞いたら、会議の10日ほど前に、社外取締役に話を聞きにいきます。社外取締役はあくまで社外の人間なので、口が軽くなることがままあるんですね。そこを狙ってネタを掴むんです。『次の取締役会議で社長が交代する』と。当然、翌日の朝刊で一面トップです。そんな一面が出たら、その会社の株価が一時的ではありますが変動しますよね。それが『マーケットにインパクトを与えた』ということになって、評価の対象になるわけです」