いまから10年後には、新聞・雑誌を紙に印刷して宅配・郵送するシステムは崩壊の危機に直面しているかもしれない。すでにその予兆はある。今年に入り、ニューヨーク・タイムズの1年購読契約を結んだ読者は、99ドルの電子書籍端末「ヌックシンプルタッチ」の無料配布を受けられるようになったのだ。いわば「新聞販売店の電子端末化」であり、印刷メディアとしての新聞の終焉でもある。

「最も成功したインターネット新聞」といわれるハフィントン・ポスト。

一方で、インターネット上では無数のブロガーやツイッター利用者が情報発信できるようになった。米国では新興メディア「ストーリファイ(Storify)」が人気だ。ソーシャルメディア上を流れるツイートや写真などの情報をまとめ、記事として公開できるサービスだ。誰もが市民ジャーナリストになれる時代になりつつある。

新聞記者はどうやって自らを差別化したらいいのか。「最も成功したインターネット新聞」といわれる米ハフィントン・ポストの共同創業者ケネス・レーラー氏は「インターネット上で膨大なニュースがタダで手に入る時代、新聞が同じ記事を用意する必要はない。新聞は単純なニュース速報はやらず、ニュース分析や解説に特化すべきだ」と語る。単純な速報ニュースと対極にあるのが、山口氏のオリンパス報道やマクリーン氏のエンロン報道だ。

ところが、東日本大震災の報道が象徴するように、日本の現状はお寒い限りだ。ニューヨーク州立大学オールドウェストベリー校でジャーナリズムを教えるカール・グロスマン教授は、米環境専門誌「エクストラ!」の11年5月号で「福島原発事故の報道はあまりにもお粗末。日本政府が『直ちに健康に影響はない』と説明すると、記者はそれをオウム返しに報じているだけなのだ」と書いている。

当局の言い分をそのまま伝える「発表報道」は、新聞記者にとっては比較的単純な作業だ。深い分析は不要だし、当局の顰蹙を買って「出入り禁止」にされる恐れもない。プレスリリースを新聞記事用に書き直す作業とあまり変わらない。そもそも、「権力のチェック」という報道の基本的使命と相いれない。