親が認知症になると財産が凍結され、子どもは管理できなくなる。前もって対策するにはどうすればいいか。税理士の牧口晴一さんは「親の財産の名義を子どもに付け変える家族信託がおすすめだ。成年後見制度よりも費用が安く、子どもの負担が大幅に軽減される」という――。(第2回)

※本稿は、牧口晴一『日本一シンプルな相続対策』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

家を買うことを考えているアジアの男女
写真=iStock.com/kazuma seki
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子どもを信じて財産を託す「家族信託」

「家族信託」は信託銀行の信託とはまったくの別物です。

家族信託とは、子どもが親に代わって親の財産の管理や処分ができる契約です。もちろん、親の介護のためという目的に沿っていなければなりません。

子どもが行うので基本的に無報酬です。ですから、信じて託せる子どもがいないとできません。そういうケースでは信託銀行にお任せするのですが、当然相当な費用がかかるので、それは富裕層向けです。

それでも、簡単に「信じて託せる」とは言えないものですね。普通の仲良し家族であれば大丈夫です。その点は、お互いにチェックできるように契約書のなかで補えます。「子どもが信じられない」といっても、認知症になったら任せるしかないのです。死んだらどのみち、どう使われようとも文句は言えませんよね。

さて、遺言書を書いて、子どもたちに財産を渡すのは、亡くなった後のことです。

家族信託は、亡くなる前に、財産の名義だけを子どもの名前に変えます。

「そんなことをしたら贈与税がかかる!」と心配されることでしょう。大丈夫です!

それは、図表1のように、親が子に任せて、任せた結果の利益は、親のものになるからです。

親の財産による損益は、あくまで親のもの

つまり、子どもは、親の財産を預かって管理・運用・処分をするだけで、その結果の利益は親のものになるからです。

ところで、子どもが親から預かった財産を、たとえ親のためとはいえ、自由に預金を引き出したり、実家を売ったりするのは、自分の名義でなければできません。

ですから、信託は、名義だけを付け替えてくれる法律制度なのです。だから、その預金を引き出したり、実家を売った利益や損は、親のものとなります。

このあたりは、はじめは奇妙な感じがするでしょうね。これがなかなか普及しない原因でもあります。しかし、平成20年の信託法の改正でちゃんと認められた法手続きです。まあ、読み進めていくうちに理解できるでしょうから、あまり深く悩まないことです。

たとえば昔、生命保険が普及し始めた頃、「え~っ! 死んだら金がもらえるの? それって犯罪じゃないの?」と思ったものでした。