価格は3本セットで5500円。「2本じゃないんですね」と聞くと、田村はこのように答えた。

「ペアにしないと履けない、というストレスをなくしたかったんです。片方だけなくしたり、同じものを履き続けると、痛んだり、破れたりしますよね。でも3本をローテーションすれば長く使えます。どんな角度でも履けるので、同じところが傷みにくいんです」

オフィス兼自宅で作業する田村さん。
筆者撮影
オフィス兼自宅で作業する田村さん。

障害のある人も、ない人も使いやすいデザインに

2022年5月にクラウドファンディングで販売すると、開始から1日半で目標金額24万円を達成し、全部で528本が売れた。同じタイミングで、大阪駅直結の駅型商業施設「大阪ルクアイーレ」のセレクトショップでも期間限定で発売。9月にはNHK「おはよう関西」に取り上げられ、新聞やメディアからの取材依頼が舞い込むようになった。

「裏表を気にせず洗濯機に入れて洗える」
「靴下の片方を探す手間がなくなった」
「爪の生え際に縫い目があたらないから快適!」

と、SNSを通して多くのコメントが寄せられる。この靴下を愛用するのは障害者だけではなく、健常者も多いという。

裏返しても違和感なく履けるよう工夫されている。
筆者撮影
裏返しても違和感なく履けるよう工夫されている。

「minamo」の製造は靴下工場で行っているものの、編み終わりの部分を手作業で糸始末をする必要があり、田村自身が大阪市のアトリエで1本ずつ行っている。「一人社長だから、毎日てんてこ舞いです」と言うが、その表情はどこかうれしそうだ。

「靴下を作るきっかけはおばあちゃんだったけど、健常者の方からも『すごく使いやすいから、子ども用もほしい』って声をいただきます。この商品を通して、誰かの不便はみんなにとっても価値があるんだと気づいてもらえたらと思います」

おだやかな口調で話す田村だが、ここに辿りつくまでは、まさに「いばらの道」だったという。「祖母の言葉があったからこそ今があります」と語る34歳の彼女は、どのように婦人子供服製造技能士になり、靴下づくりをはじめたのだろうか。自宅兼アトリエで話を聞いた。

工場に就職、手取り6万円の生活…

1988年、愛媛県松山市に生まれた田村は、高校までを地元で過ごした。高校3年の夏に図書室で借りた小説の主人公の自由な生き方に憧れて、服飾の道を志す。

なぜ、服飾だったのか。

「小学校3年生くらいのとき、父方の祖母がワンピースを作ってくれたんです。それがうれしくて、私もスヌーピーやリカちゃん人形に服を着せてみようと、見よう見真似で作り始めて。5年生で手芸部に入ったんですけど、そのころから『いつか、人にずっと着てもらえるような服を作りたい』って思うようになってました」