田村自身にも変化があったようだ。障害者の友人のことを祖母によく話すようになった。「いろんな考え方の人がいるんだよ」と伝えることで、祖母に前向きになってもらいたかったからだ。

「優季の活動を見届けたいから、もっと生きないかん」

祖母のこの言葉は、田村の宝物になっている。

靴下づくりから生まれた交流

開発した靴下はインターネットで一般に販売している。定期的に購入するリピーターが増えているという。

彼女の活動は、靴下だけにとどまらない。たとえば友人のネイリストと始めた点字を施したネイルチップのオーダー製作。最近では、視覚障害者と踊る社交ダンス愛好家から「一緒に踊るパートナーに気持ちを伝えたい」と注文が入った。指先をなぞりながら気持ちを知った相手は、とても喜んだという。

自立支援センターと共同で行ったワークショップ。
写真提供=ouca
自立支援センターと共同で行ったワークショップ。

また、不定期で障害のある・なしにかかわらず参加できる交流の場も設けており、そのイベント内容はなかなか尖っている。脳性麻痺の方から相談を受けたことから、デリケートゾーンについての勉強会を開いた。トランスジェンダーの友人と共同で開催した「大人のおもちゃやさんツアー」も企画した。

点字ネイルチップ。
写真提供=ouca
点字ネイルチップ。

「なかなか人には聞けないことを、みんなで語ったり、体験したりすることに意味があるんです」と語る。

「町で障害者とすれ違ったとき、自分とは違う世界の人だと思いがちです。でも、本当は普段の悩みも日ごろの不便さも、実は近かったりする……。一緒にいることで、『私もそうだな』って気づくことが大切で、その人の生活の中で障害者の普段が見えたらいいなって思うんです」

誰かが抱える生きづらさを、みんなの価値に変えたい

苦しい環境であってもじっと耐え、努力を続けてきた。ときに憤り、不安にさいなまれることもあった。それでも前進を続けてきたのは、祖母をはじめ、あらゆる人たちの悩みが自身の生きづらさと重なり、それを昇華させたいと強く願ったからだ。

「『もしかしたらこんなふうに困ってるんじゃ?』と想像したり、『こうしたらできるかも?』って工夫したりする力があれば、世界はもっと優しくなると思います。これからも障害のある方々の声に耳を傾け、人生を謳歌してもらえるような、生きててよかったと言ってもらえるプロダクトやイベントを生み出したいです」

誰かが抱える生きづらさを、みんなの価値に変えたい――。このテーマを胸に、彼女は今日もミシンと向き合っている。

「マイノリティーの生きづらさを、みんなの価値に変えたい」と語る。
筆者撮影
「マイノリティーの生きづらさを、みんなの価値に変えたい」と語る。
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