鉢植えのアロエを食べるか悩んだ…口座残高50円の極貧生活

これらの費用は全部で200万円を要した。さらに、縫製技術を磨くセミナーに通っていたことも重なり、コツコツ貯めていたお金がどんどん減った。通帳を開くと残高が50円になっていた。当時のことを、田村は苦笑いをしながら振り返る。

「あまりにも極貧で、縫製工場のパートのおっちゃんにご飯をご馳走になったり、『困ったら、これ食べな』とアロエの植木鉢をもらったこともありました(笑)。でも、あのアロエには絶対手を付けないようにしようって思いながらがんばってましたね」

初期投資とはいえ、生活費を捻出できないほどお金を使うのはやや行き過ぎているように思うが、そこには彼女なりの信念があった。

目標を書いた板を瓦割りして、気合いを入れた。
筆者撮影
目標を書いた板を瓦割りして、気合いを入れた。

「自分が何をしたいかを理解できなければ、たとえブランドを作っても人に伝わらないって思ったんです。当時の私は祖母のために何かしようと思っても、まだ気持ちがフワフワしていました。だからまずは自分のブレない目標を見つけて、そこに向かって走っていけるような環境に身を置きたかったんです」

無鉄砲にも見える投資だったが、自分の意志が明確になり、行動に移す原動力になった。

まずは、ブランドのコンセプトや下着を紹介するために、SNSに毎日文章を投稿するようにした。すると、セミナーを通じて知り合った人から賛同のコメントが寄せられるようになった。「応援してくれている人と、何でも話せる関係がつくりたい」と思い、Facebookでコミュニティーグループを結成した。

だが、まだまだ多くの人に周知されるまでに至らず、右往左往する日々が続いた。

靴下づくりをはじめたきっかけ

2019年の夏、「靴下づくり」のきっかけが訪れる。プロダクトデザイナーの鈴木康祐との出会いだ。

「鈴木さんは、家具や生活雑貨のデザインを手掛けている方です。頼りになる先輩ができたようでうれしかったですね。ある日、雑談のなかで鈴木さんが『実は僕、いつか靴下のデザインをしてみたいんだよね』と話しているのを聞いて、『そういえば……』ってピンと来たんです」

以前、視覚障害者の友人から「裏表や色の違いがわからないから、靴下を履くのに時間がかかる」と相談を受けたことがあった。また、祖母も靴下を履くことに難儀していた。