「目が見えなくても、簡単に履けておしゃれな靴下があったらいいですよね」と話すと、「いいね、やろう!」と鈴木。田村は靴下づくりに舵を切ることにした。

2020年10月、ブランド名を「sakae」から「ouca(おうか)」に変更。「人生を謳歌おうかする」という意味を込めた。まずはたくさんの人から悩みを聞くところから始めようと、SNSでアンケートを実施。視覚障害者3人と、化学物質過敏症を持つ1人を招き、オンラインでヒアリングをした。アトピー性皮膚炎の田村自身も、積極的に意見を出した。

4色8パターンの履き方ができる。
写真提供=ouca
4色8パターンの履き方ができる。

障害者の声を形にする

視覚障害のある参加者から、「『靴下の組み合わせが違うよ』と指摘されて、ものすごく恥ずかしい思いをしたことがある」という話があった。その言葉を聞いて「私もお寺に行ったとき、靴下を裏表に履いていて恥をかいたことがあったな」と思い出した。そこで、作るべき靴下のイメージがぱっと浮かんだ。

「色違いOKが前提の、どの向きからも履ける靴下があれば解決できるかも!」

靴下は縫うのではなく、編むことが前提だ。婦人子供服製造技能士1級の国家資格を持っていたとしても「自分では作れない」と思ったことから、知り合いの糸屋から紹介を受け、「靴下の町」で有名な奈良県広陵町の靴下工場に足を運んだ。

工場長に企画書を見せると、「まずは一度サンプルを作ってみましょうか」と言ってもらえた。だが、靴下づくりの道のりは思った以上に難航する。作りたいものが、靴下業界ではイレギュラーなことばかりだったからだ。

「表裏の柄を表現するには、普通の靴下よりコストも時間も2倍かかることがわかったんです。それに、靴下職人からしたら『裏目を表目として履くなんて考えられない』という意見もあって、このまま完成できるのかなぁって焦りましたね」

発案から完成まで2年かかった

靴下の市場で100足以上のリサーチをし、6回の試作を重ねたが、納得いくものができずにしばらく悩んだ。ある日、ふと、「色の反転を利用するのはどうだろう?」と思い付く。

鈴木にデザインを描いてもらい、それを工場長に見せに行った。すると「田村さんが表現したいこととマッチしていて良いですね」と言って、サンプル作りに取り掛かった。

そこで完成したのが、「minamo」だ。発案から約2年の年月がかかったからこそ、達成感はひとしおだった。名前の由来は「太陽の光が反射して、水面がキラキラと輝くようなイメージでデザインしたから」という。

「ルクア大阪」で売られている「minamo」
写真提供=ouca
「大阪ルクアイーレ」での展示販売会の様子。

糸はコットン・ウールなどの天然素材を使用し、縫い目やゴムによる締め付けがないように工夫した。履き心地に徹底的にこだわったのは祖母の存在があったからだ。

「おばあちゃんは目が見えないからこそ手先が敏感で、感覚も鋭いから、触って気持ちのいいものに包まれてほしかったんです。minamoで『あなたは生まれてきてよかったんだよ』って伝えたかったし、祖母に『残りの人生、優季のおかげで楽しかった』って思ってもらいたい……。その気持ちが原動力でしたね」