iDeCoとNISAが同列で語られることが多い。経済コラムニストの大江英樹さんは「どちらが得なのかという質問をよく受けますが、まったく目的が異なる制度ですから、比較することはできません。ただ、iDeCoは投資の勉強をしていない人でも始められます。使わない手はありません」という――。
idecoとお金
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セミナーで寄せられる意外な質問

前回、2024年から始まる新しいNISAについてお話をしました。私は普段から各地でセミナーや講演をしているので、しばしば資産形成に対する質問をいただくこともあるのですが、最近よく受ける質問に「iDeCoとNISA、どちらが良いですか?」とか「どちらから始めるべきですか?」というのがあります。実を言うと、これはあまり意味のない質問なのです。そもそも全く目的の異なる制度ですから、一概に比較することはできません。

さらにひどいのになると「iDeCo、NISA、ふるさと納税、どれが一番お得ですか?」みたいな質問もあります。そういうことを聞きたくなる気持ちはわからないではないですが、さすがにそれはちょっとひどすぎる質問です(笑)。iDeCoは「老後のための資産作り」、NISAは「効率的な資産運用を支援する制度」、そしてふるさと納税は「地域応援のための寄付」ですから、いずれも比較の対象にはなりません。まあ、ふるさと納税と比べるのは論外だとしてもiDeCoとNISAについては、少し仕組みに対する誤解もあって、「どちらがお得?」みたいな質問は多いので、この違いと利用法についてお話をしてみたいと思います。

iDeCoは老後資産形成制度であって投資優遇制度ではない

まずiDeCoは正式名称を「個人型確定拠出年金」と言います。名前の示す通り、これは年金なのです。「年金」と言えば一般的には厚生年金や国民年金といった公的な年金制度が頭に浮かびます。それは最も基本となる年金ですから当然です。ただ国の年金制度の本質は保険であって、貯蓄や資産形成ではありません。これに対して私的年金制度である企業年金やiDeCoなどは、その目的が老後の生活を支えるためである点は公的年金と同じですが、仕組みは保険ではなく、貯蓄や投資を使った資産形成の方法です。

老後のために自助努力で資産形成をおこなうための制度ですから税制優遇が与えられているわけです。よくiDeCoは60歳まで引き出せないのがデメリットだという人もいますが、それは制度の本質をあまりよく理解していない人です。むしろ60歳まで引き出せないのは最大のメリットなのです。なぜならお金の使い途は色々で、人によって何に使うかは異なりますが、老後資金だけは誰にとっても必ず必要となります。歳を取らない人は1人もおらず、誰もがいずれは働けなくなります。その時に備えるための老後資金は必ず必要だからです。一般的に人は目の前にお金があるとどうしても使ってしまいます。60歳まではいかなる理由があっても引き出せない仕組みになっているからこそ、老後の資産形成ができると考えるべきでしょう。