学ぶ、働く、遊ぶはあきらめた

海沿いの狭い市域に30万人が暮らすまちです。似た人口規模でも、市の広さが16倍強の青森市や18倍強の秋田市とは、立地も気候も、インフラ整備への考えやコストも違ってきます。

すぐ先の神戸、大阪、京都は大きな都市圏。学校も、お店も、企業も溢れかえっています。

大学を誘致しようにも、すでに有名校、伝統校が近隣にたくさんあります。企業を呼べる条件のいい立地でもありません。遊ぶのも、神戸で夜景を見ながらデートすればいいのです。いまさら競争を始めるのはリアリティがありません。

大学を誘致したい、企業を誘致したい、若者が集まるまちにしたい。

多くの政治家は地域の特性も考慮せず、いまだに「あれもこれもする」と言います。私はそのようなことは言いません。

今の時代の、明石という立地だからこそ、やるべき政策がある。極めて冷静に戦略を描いた結果、まず「子ども」から始めたのです。まちの優先度からすると「学ぶ」「働く」「遊ぶ」はある意味、あきらめる方針になりました。

明石市が置かれている現状から、18才で若者がいなくなるのも、ある程度は仕方がありません。22才ごろに就職でさらに出ていく。これも一定程度は仕方のないことです。当然、結婚は働きに出た先でしますから、そのまちで1人目の子育てを始める方がほとんどです。

「2人目が欲しい」若いカップルの選択肢となりうるまちに

注目したのは、その後です。

「2人目が欲しい」となれば、不安も夢も広がります。「お金は大丈夫か」「仕事と育児を両立できるか」「そろそろ家を買いたい」「できれば1人に1つ、子ども部屋を用意してあげたい」。

子供の遊び道具などがある部屋
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです

どこに住むか、どこで育てるか。その選択肢として挙がるまちにすればいいのです。

神戸はもちろん、西宮市や芦屋市といった周辺の高級住宅地よりも安く、同じ値段で、子ども部屋を1つ増やせる。海が近くて気候も温暖、子どもがのびのび遊べる環境がすでにある。

あとは、安心して子育てができるよう、国を待つことなく子育ての負担を軽減する政策があれば選ばれる。こうして明石市は「暮らす」「育てる」に特化しました。

事実、30才前後の子育て世帯が小さな子どもを連れて、続々と引っ越してきています。

私が他のまちの市長なら、別の方法を選ぶかもしれません。立地や特性で戦略が違うのは当然です。