録音に助けられた20代女性のケース

21年2月、神奈川県横浜市神奈川区の福祉事務所で、ダウンロードした申請書を手に、生活保護の申請をしたいと訪れた20代女性に対し、面接した職員は、誤った説明や返答をして、申請書を受け取らなかった。仕事も住まいも失っていた女性に職員は「生活保護申請の意思なし」と判断した。

そのやり取りを女性が録音していたため、支援団体が違法だと抗議し、神奈川区の福祉事務所と市側は謝罪した。女性は別の自治体で生活保護を受けることになった。

ボイスレコーダー
写真=iStock.com/deepblue4you
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ある自治体で断られ、他の自治体で受給できるケースはあるのだろうか。

「つい先日も、仕事に就けず、家賃も滞納している女性が相談したら、若いんだから仕事を探せと追い返した事例が都内の某区でありました。私が職員だったときも、住む家がなく、2日間も食べていない状態の人を追い返した自治体があり、私はその自治体に抗議しました。あまりにひどいと。このコロナの情勢では、働きたくても働けない人が多い。働けたとしても正規のまともな仕事につけない人もいる。20、30年前と雇用情勢が全然違いますから結構厳しいです。非正規か、低賃金で働いている中で、他に仕事を探せばいろいろあるだろうと言われても、ちゃんと食べていく賃金をもらえるところはなかなかないのが現状です」

水際対策の問題事例

田川によると、1人で相談に行って、体よく追い返された問題事例がいくつかある。実際に自治体で起こった例を紹介しておこう(「 」内はすべて田川談)。

1「ここに住民票がなければダメ」と言われた
「正しくは、住民票がどこにあるかが問題ではなく、居住地があればそこの福祉事務所、なければ現在地でOK。生活保護の実施責任をどこが負うかは大事な問題です」
2「(役所の終業前なのに)明日来てくれ、今日は受け付けは終わり」と言われた
「超多忙なことは理解できるが、明らかに違法で不適切」
3「居住地が定まらないと申請できない」と言われた
「定まらなくても、申請はでき、保護の開始もできます」
4「うちは、女性なら婦人保護施設で保護することになっている」と言われた
「婦人保護施設はDVなどで逃げてきた女性のための施設。携帯電話は使用できず、相部屋のところも。必要もないのにそこしか利用できないというのは疑問です」
5「ホームレスの方は、無料低額施設(無低)へ」と言われた
「無低は社会福祉法によって定められた生活困窮者が無料もしくは低額で利用できる施設ですが、大人数の相部屋で劣悪な環境のところもある。貧困ビジネスと称される無低もあり、逃げ出した人も多いので要注意」
6「ビジネスホテルに泊まりながら生活保護は受給できない」と言われた
「ビジネスホテル代を生活保護の住宅扶助として支給して次のステップに進むことはできる」
7「資産価値がある住居を売れば生活できる」と言われた
「自己居住用の不動産は東京なら3000万円強、全国どこでも2000万円程度なら保有容認される」
8「自治体間の格差がありすぎる」というケース
「開始決定までの生活費に充てる貸付の制度がなかったり、額が少なすぎる自治体もあります」