「家族に知られるのがいや」
生活保護は自分が受けるものではない、受けられない、と思い込んでいる人が多い。また受けられると思っている人の中でも、なるべくなら受けたくないという人が、かなりの割合でいるという。
生活困窮者を支援する「つくろい東京ファンド」が20年末から年始にかけて、生活相談に訪れた人に「生活保護利用に関するアンケート」を実施。165件の回答のうち、生活保護を利用していない128人にその理由を尋ねたところ、34.4%が「家族に知られるのがいやだ」と答えた。
生活保護を利用するまでの流れはこうだ。住んでいる地域の福祉事務所に相談し、利用する意思がある人は申請書を提出する。申請を受けると福祉事務所が戸籍情報をもとに、生活状況や資産状況などを調査する。その中で、おおむね2親等以内の親族(親、子、兄弟、祖父母、孫)、まれに同居していない戸籍上の配偶者に、生活の援助が可能かどうかを手紙などで確認する。これが「扶養照会」と呼ばれるものだ。
つくろいファンドの同アンケートには「家族に知られたくない」「家族に知られたら縁を切られる」などの抵抗理由が挙げられた。
扶養照会をしなくてもよいケースもある
もともとDVや虐待を受けていたケースでは、扶養照会をしなくてもよかったが、21年3月からは、親族に借金を重ねている、相続をめぐり対立している、親族と縁を切っていて、関係が著しく良くない、10年程度音信不通などのケースでも、扶養照会をしなくてもよくなっている。利用の要件とはなっていないのであるのだが――。田川に尋ねた。
「生活保護制度は、生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)として憲法で保障されています。これまで何回か生活保護バッシング騒動などもあって、生活保護が恥ずかしいものだという、スティグマ(負の烙印)になっているのです。ひとり親の方で困窮されているのに、生活保護を受けるくらいなら今の状態でがんばる、という人もいます。児童手当や児童扶養手当があるので、自分の少ない収入でなんとかするというのです。
生活保護を利用したら、役所からあれこれ言われて窮屈だと思われているのかもしれない。ひとり親の家庭で、男の人と交友があってはいけないということもないのだけれど、中にはケースワーカーが訪問してきて“あれ、男物の歯ブラシがありますね”みたいなことを言われるので、プライバシーに踏み込んでくるのなら、やめようと抵抗を感じる人もいます。口うるさく言われてはたまらないという思いもあるのでしょうね。受給するまではハードルが高いのも事実です」