※本稿は、宮下洋一『死刑のある国で生きる』(新潮社)の一部を再編集したものです。
母を殺した犯人に対し「俺が殺してやりたい」
西口宗宏が逮捕され、再犯者だと分かった時、田村勇一(仮名、武子の長男)は、「こんな人間、俺が殺してやりたいわ」という怒りが爆発した。田村一家の怒りと悲しみが極限に達した状態の中、裁判は始まった。重雄(仮名、同・夫)と勇一は、最高裁での1回を除き、全公判に参加している。麻奈美(仮名、同・長女)は、一審の公判のみを傍聴した。
初公判で、3人は初めて、田村武子を殺した西口を見た。検察官側の席にいた重雄と勇一は、被告人との距離がわずか3メートルだった。報道で目にしていた厳つい写真の西口と違い、体が小さく、気の弱そうな男に見えたという。勇一がその時の印象を語る。
「お袋がこんなやつに負けたんかと思いましたね。せめて俺の手で2、3発、顔でも腹でも殴らせてくれへんかなと思いました」
感情的な発言を極力抑えようとしている重雄は、「私も、こんな男にやられたのかと思いましたね」と述べた後、警察から得た情報を明かした。
「生きたまま溶鉱炉に落としたい」
「どうやら、車の中で西口に脅されたみたいなんです。お前の家に火をつけに行くとか、家族に手を出すとか。それと警察は、家内が西口に説法したとも言うてはりました。『人間は罪深いけれども、こういうことをすると、あんたの罪を倍加していくんや』と。日頃、家内はね、そういう話をよくしよるんですわ。お寺さんとも、しょっちゅう話をしてますんでね」
重雄は武子のことを、時々、現在形で語った。彼の中で、妻はまだ生きている。私に見えていないだけで、武子は重雄のために、目の前のキッチンで酒の肴を作っているのかもしれなかった。
勇一は、西口を睨み続けた。だが、西口は遺族とは一度も目を合わせなかったという。遺族側の意見陳述の場が提供されると、勇一は、被告に向かって激昂した。
「生きたまま溶鉱炉に落としたい」
なぜその言葉が出てきたのか。