遺族の望んだ通り死刑が言い渡された

「お袋が殺されて、焼かれたわけでしょ。だからお前は、生きたまま苦しみを味わって死ねという感覚ですよ。これは残酷な言い方ですけど、突き落とした後、俺はお前が溶けるまで上から眺めといてやるわという勢いでしたね。苦しめばいいという」

高炉
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攻撃的な言葉を述べた息子に対し、重雄は、少し穏やかなトーンで意見陳述を行った。

「愛する妻は、私にとって、家庭の中心におる太陽でした。一緒にできるであろう楽しみもあったのに、そういう夢までぶっつぶされた。非常に頭に来ている。そして、極刑を望みますと言いました」

重雄は、武子を失うと、それまで縁のなかった「無気力」という感覚に襲われたという。家の中が急に暗くなり、周りのことに関心がなくなった。年賀状や仏事のお返しも、面倒だと思うようになった。数週間、仏壇の前に座り続けていた。今では、簡単な料理を作ったり、コーヒーを淹れることくらいはできるようになった。

遺族側が望んだ通り、西口には死刑が言い渡された。裁判では、絞首刑の残虐性や、西口の精神鑑定なども争点となったが、尾崎家の遺族同様、勇一も重雄も、死刑を阻止しようとする証人や弁護側の主張に違和感を持っていた。

死刑廃止は「家族に何もない人間が言うこと」

裁判を振り返ったことで、勇一の中に怒りが沸々と蘇ってきたようだ。私も、同じ立場だったらと考えると、彼にとっての正義である「母親の敵討」という考え方も理解できる気がした。だが、冷静に耳を傾けなくてはならない。

上半身を前のめりにさせ、勇一が続けた。

「一審も二審も、反論が馬鹿げていた。生い立ちがどうじゃの、かわいそうじゃの。ほな、生い立ちが悪ければ、みんなあんな事件を起こすのかと。素人が見ても突っ込めるような弁解ばかりだったんですわ。絞首台の床から落ちて首が飛ぶこともあると言うてはった。命は大事やから、それより大事なものはないねんけど。ほな、被害にあった家族の命はどないなんねん。そういう論法を持ってくる人間は、自分に何もなくて、家族に何もない人間が言うことやと思いました。実際に家族が巻き込まれて命を奪われると、死刑廃止とは言えませんね」

勇一の発言は次第に熱を帯びていった。じっとしていられなくなったのか、頻繁にソファから腰を上げ、キッチンの周りを歩いたり、リビングを出たりしていた。