頭からネガティブなことを追い出そうとしても無理なときはどうすればいいのか。作家のジェーン・スーさんが無限ループから抜け出すために編み出した儀式とは――。

※本稿は、ジェーン・スー『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。

思い悩む女性
写真=iStock.com/metamorworks
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取り返しのつかない昔の失言が頭をぐるぐるめぐる

気づくと、同じことばかり考えている。そういう日がもう何日も続いている。こういうときの「同じこと」はたいてい、えらくネガティブなことか、ありえないほどポジティブなこと。たとえば前者は取り返しのつかない仕事上の失敗や、誰かを傷つけてしまった失言、言い返せなかった昔の別れ話。後者なら、「もし私が○○だったら」系のシミュレーションや、ちょっといいなと思った人と距離を縮めていく妄想。今回は、残念ながら前者だった。

仕事上の大事な場面で、私がとんでもない失言をしたのはずいぶんと前のこと。なのに、近頃そればかり思い出し、日が経つのと反比例して記憶がどんどん鮮明になっていく。相手が着ていた服、私からは見えないはずの自分の表情、私が口を開いた瞬間に凍り付いた空気の色。慌てて取り繕い、かえって事態が悪化したこと。こんなに鮮やかに思い出せるなら、脳のなかで記憶の捏造ねつぞうが始まっている可能性は十分にある。日を追うごとに、細部がありありと浮かんでくるんだもの。そのたびにヒュッと息が止まり、私はギュッと目をつぶる。「あぅ……」と小さな声が漏れてしまうこともある。そして考える。どうしてあんなことを言っちゃったんだろう。しかも、得意げな顔で。

自分の浅はかさに幻滅

こうやって自分の浅はかさに幻滅したことは、一度や二度ではない。

ちゃんと正しく、ユーモアを持って寛大に生きたい。不用意に他者を傷つけることのない、思慮深い人になりたい。周りを見渡すと、私以外の大人はみなそれができているように思える。先の先を考え、相手を慮って行動しているように。どうして私はそれができないのだろう。どんどん気分が暗くなる。