服役すると治療の空白期間ができてしまう
性嗜好障害は心の病気だが、痴漢や盗撮なら抑制できないことはないとも大石は言う。
「よほどのことがない限り、痴漢盗撮はほとんどが罰金刑ですむ。法律のことはよぅ知らんけど、強制わいせつや強制性交は捕まったら実刑は必至で、一件につき10年は食らうと考えていい。罰金を払って娑婆におられるか、実刑で塀の向こうに行くか、この違いが大きい」
痴漢、盗撮は示談に持ち込むケースが多く、仮に起訴されたとしても執行猶予がつく判決がほとんどだ。実刑は逃れられるが、しかし、同じ犯行を繰り返したら問答無用で収監される。そうならないように、治療に専念する患者が多いのだという。問題は、強制性交罪などの罪で有罪判決を言い渡され、服役するような場合だ。すぐにでも治療が必要なのだが、刑期を終えるまでが治療の“空白期間”になるのだという。
「刑務所内でも再犯防止プログラムみたいなことをやっとるようだが、うまくいってるとは言えんわね」
にべもなかった。刑務所内の矯正プログラムがうまく機能していれば、再犯率をもっと下げられるはずだからだ。厄介なのは、出所後、時間が経つにつれて再犯率も上昇していくことだ。
危ない場面を避けることから治療は始まる
「10年ぶりに娑婆に出てきました、20年ぶりに娑婆に出てきましたという患者もおる。10年刑務所におれば、世間と遮断された10年の空白期間を埋めていかにゃいかん。これが容易じゃない」
性嗜好障害の治療は、問題行動を起こす“きっかけ”を探り、患者自身が衝動を抑え、自分をコントロールできるようにすることだ。痴漢や盗撮の治療なら、危ない場面を避けるところから始まる。たとえば満員になる特急や快速電車を避け、時間はかかっても通退勤には各駅停車を利用する、ミニスカートの女性がいたら目を背け、できるだけ近寄らないようにする――、治療はこんな感じで進められていく。