ヒットは意識せず、自分が見たいものを書いた
主人公の青羽紬(川口春奈)は、かつて高校時代に本気で愛した恋人・佐倉想(目黒蓮)に突然別れを告げられてしまう。8年後、現在の恋人・戸川湊斗(鈴鹿央士)と前向きに人生を歩もうとしていた彼女は、中途失聴者となり音のない世界でひっそりと生きていた想と再会を果たす……そんな切なくも温かいラブストーリーが話題となっているドラマ『silent』。
その人気の理由のひとつが、登場人物たちの細やかな心情を丁寧に描いた脚本の妙。脚本家は、なんと本作が連続ドラマデビュー作だという生方美久氏。回を追うごとにSNSで伏線の考察が盛り上がるその巧みなストーリーテリングの秘訣や、作劇のこだわりについて話を聞いた。
――本作『silent』が連続ドラマデビュー作だという生方さん。まさに異例の大抜擢と大ヒットですが、今の率直な感想はいかがですか?
【生方美久(以下、生方)】日ごとに反響の大きさを感じていて、本当にありがたい限りです。ただ、連ドラは1話から最終話まで通してひとつの作品だと思っているので、まだ途中で評価されている気がして落ち着かないです。最終話のオンエアまでは終わった感じがしないので、今は視聴者のみなさんが最後まで見た感想を知るのが楽しみです。
――ご自身では、本作の大ヒット・大反響の理由をどう分析されていますか。
【生方】おそらくプロデューサーの村瀬健さん(以下、村瀬P)はヒットするための要素をいろいろ考えて、私を誘導してくれたんだと思いますが、私自身はそこまでヒットや話題性を意識していなくて。他のドラマのトレンドを取り入れようとかも考えていませんでしたし、いい意味で視聴率も気にしないようにしていました。
たくさんの人に見てもらうよりも、見てくれた人の満足度が高いものにしたいと思っていたので、シンプルに自分が見たいもの、書きたいものを書かせてもらった感じです。
全体の構成は事前に決め込まない理由
――SNSでは伏線の考察が大変盛り上がるなど、緻密な脚本への称賛が集まっています。脚本家によって、登場人物の履歴書や人物相関図を作ったり、綿密なプロットを立てたりと書き方は人それぞれだと思いますが、生方さんはどのように脚本を書かれているのですか?
【生方】1話を書き始める前に、主な登場人物のプロフィールは全員分作りましたが、履歴書というほどちゃんとしたものでもなくて。そのキャラクターの性格を形成したであろう過去の出来事とかをざっくばらんに書いています。
相関図とかプロットは作っていません。いざ物語の中で登場人物が絡み出すと、当初考えていた設定から少し変わったり、プロフィールに書いていた要素を結局使わなかったりということが結構あって。実際に脚本に書くことで決まっていく感じですね。
――何話でこのエピソードを初めて明かそうとか、何話でこの回想シーンを入れようといった全体の構成を事前に立てたりはしていないんですか?
【生方】最初はざっくりと構成を立てていたんですが、書いていくうちにどんどん変わっていっちゃうんですよね。
全体の構成を考えても結局書いていくうちに変わるし、そこに無理に当てはめようとすると気持ちよく書けなくて。さすがに次の回の展開ぐらいは決めていましたが、3回先で何をやるとかは考えずに書いていましたね。