現代の世にあふれている多くの美徳は幻想である

友達は多いほうがいい、適齢期になったら結婚すべき、結婚したら子どもを持つべき、家族は常に仲良くすべきといった旧来の社会常識に縛られている限り、苦悩から解放されることはなく、自分時間を増やすこともできない。

「日本の殺人事件の約半数は家族間で起きていて、なかでも多いのが夫婦間での殺人です。家族同士の仲が悪い状態であれば、みんなで食事をする必要もありません。私自身、高校生の頃からは家族であまり食卓を囲まなくなっていたので、トレーに食事を載せて自室で食べていました。クリスマスケーキも各自が切って部屋で食べました。それでいいのです」

互いに顔を合わせることで心の距離が近づき口論やもめごとが起きるぐらいなら、距離を取って平穏に暮らしたほうが賢明だろう。

「歴史を振り返れば、誰もが結婚する『皆婚社会』になったのは、高度成長が続いた戦後の一時期にすぎません。この時期の社会は、結婚しすぎだったのでしょう。江戸時代まで遡れば、結婚と離婚を繰り返したり、子供が産まれず養子を迎えて跡取りにするなど、『家族』の形態は今よりはるかに柔軟でした。今、我々が持っているような家族観は明治以降になってできた新しいものです。当事者同士で合意できているなら、男女一対一の関係にこだわる必要もないと思います」

愛情や愛着を抱く相手を異性に限定する必要はないし、さらに言えば、人間に限ることもないという。

「二次元空間のアニメキャラを愛したり、育てている植物に名前をつけて可愛がったり、ぬいぐるみを部屋に置いてリラックスするなんていうことも、広い意味で言えば家族同然の役割になる。恋愛もセックスも結婚も、したい人はすればいいし、したくない人はしなくていいのです」

無理して周囲に合わせる必要など、まったくない。人間関係に消耗することなく、自分の時間を大切にしたいものだ。

鶴見 済
鶴見 済(つるみ・わたる)
1964年生まれ。東京大学文学部社会学科卒。93年『完全自殺マニュアル』が社会現象となり、累計で100万部超に。見知らぬ人同士のつながりの場「不適応者の居場所」を主宰している。
(撮影=藤中一平)
【関連記事】
相性の悪さは努力では解消できない…「結婚相手に選んではいけない人」を見分ける"シンプルな質問"
医師・和田秀樹が警鐘「あなたの調子が悪いのは、スマホのせいかもしれない」
「これだけ言っておけば大丈夫」すぐに落ち込む"自己肯定感が低い人"を変える魔法の口癖
「なぜ共働き女性は専業主婦をバカにするのか」女子アナから年収60万円の主婦になった女性の答え
親戚の集いで延々と「飯炊き女」をやらされる…地方に今なお根強く残る"長男の嫁"という苦行