正面から不満や不平を伝えるのは得策ではない

苦手な相手であっても、正面から不満や不平を伝えるのは得策ではないという。

「完全自殺マニュアル」と「人間関係を半分降りる」

「相手を『嫌う』という状態は、実は心の距離が非常に近いのです。嫌っている感情を表に出せば、相手もこちらを意識して強く反応する。そうなれば、心の距離はさらに近くなってしまいます。突然無視したり不満を言ったりするのではなく、挨拶や世間話程度は返しておくほうがいいでしょう。たとえ相手との関係が改善しなくても、心が離れてしまえば、問題は解決したのも同然なのです」

集団の中で孤立しないことも重要だ。

「仲間を増やせば、他者から攻撃される機会は格段に減ります。SNSにアップされている誰かの仲間との集合写真を見て、何となく『羨ましいな』と感じてしまう人は少なくないでしょう。仲間が多いということは、言い換えれば力が強いということなんです。なだらかに味方を増やすことは、人間関係を半分降りることと必ずしも矛盾しません」

日本社会では頑張ることが美徳とされがちだが、それは必ずしも正解とは限らない。

「『辞めてはいけない』と思い込んでしまうと、逃げ場所がなくなって余計に辛くなります。どうしても辛いときは辞めてもいいんだと開き直ることで、ぱっと心が解放されることもあるでしょう」

人間関係を半分降りることで、はたから見れば他者とのつながりは希薄になっているかもしれない。だが、そんなことはまったく気にする必要はないと説く。

「一般的には『孤独』というのは悪いもので、『友達がたくさんいるほうがいい』と思われがちですが、そんなこともありません。たとえ知り合いや友達が多くても、彼らから否定される関係であれば、それは決して幸福な状態ではありませんよね。自分を肯定してくれる人間関係を大事にすべきであり、否定も肯定もされない孤独な状態は、いわば無風の状態。必ずしも悪いものではないのです」

人間関係に悩んだり、人付き合いに振り回されている状態を脱すれば、自分時間は飛躍的に増える。

「私が勤務していたメーカーでは当時、新入社員は宴会で芸をすることが暗黙の了解として半ば義務付けられていました。社内行事の運動会をみんなで応援するなど、公私の枠を超えた一体感が求められていた。集団に合わせてばかりでは、時間もお金も持っていかれてしまいます。どこかで線を引く必要があるでしょう」

近年は、こうした全人格的な没入を求める働き方は減ってきている。

「基本的には良い流れだと思います。1990年代あたりから終身雇用を前提とした枠組みが崩れつつあるなか、プライベートの時間を区切らずに働く熱血主義的な会社文化の多くが消失しました。経営家族主義とも呼ばれますが、そのデメリットも見るべきです」