「中学校以下は壊滅状態」
高校野球だけではない。中学年代に目を向けてみる。
2020年度の全国の軟式野球部に所属する男子中学生は15万8555人。サッカーの17万5338人、バスケットボールの16万840人に次いで3番目の数字となっている
10年前の2010年度のデータでは、野球は減少傾向にあるとはいえ、29万1015人と全競技で最も多かった。サッカーは2番で22万1407人、次いでバスケットボールの17万4443人、ソフトテニス(16万7674人)、卓球(14万4231人)と続く。
少子化の影響もあって、他の競技も部員数を減らしている。
だが、野球部の部員数の落ち込み方は突出している。
「中学校以下は壊滅状態ですよ」
現場を知る関係者はこう口を開く。
「Jリーグができて、サッカーに流れたなんて言っていた時代はまだよかった。いまは卓球、バスケ、テニス、いろんなスポーツを子どもたちがするようになった。野球が中心という時代は終わった」
「ルールがわからない世代」が増えた
野球が世界的に盛んな地域は北中南米と東アジアくらいである。欧州でも野球はサッカーやバスケットボールなどに比べると、まだまだ市民権を得ていない。
その一因として複雑なルールが挙げられる。アウトカウントが少ない状況で走者が出れば、送りバントをする。送りバントの中にも自分も塁に出るつもりのセーフティーバントもある。他にもスクイズや犠牲フライ、進塁打など、ルールがわかっているからこそ味わえる野球の醍醐味がある。
日本では野球のルールは40代以上の大人なら男女を問わず、だいたいは理解できるだろう。それは、彼らがシーズン中には連日、お茶の間で巨人戦を中心にプロ野球中継が流れていた時代に育ったからだ。
つまり、野球はルールが複雑でそれゆえに奥が深いのが魅力だが、その競技の特性上、ルールがわからない層が増えてしまうと、競技人口だけでなく、一気にファン層も減ってしまう。
「巨人、大鵬、卵焼き」もはや過去の話に
とは言え、プロ野球の観客動員数は新型コロナ禍以前は増加傾向にあった。
「本当に野球人気は落ち込んでいるのか」といぶかしがる読者もいるかもしれない。
日本野球機構(NPB)によると、たしかにプロ野球の観客動員数は2013年から19年まで増加傾向にある。新型コロナ禍前の19年のセ・パ12球団の観客動員は合わせて2653万人(1試合平均3万929人)。史上最多の数字だ。
一方で、プロ野球中継は地上波からほぼ消滅した。
関係者は「国民的な大衆スポーツだった野球が、コアなファンしか取り込めなくなっている」と危機感を募らせる。
「巨人、大鵬、卵焼き」に子どもがあこがれた時代はもはや過去の話だ。
そもそも、スポーツ紙の一面をプロ野球が飾る頻度も随分と減っている。
稲葉監督は、日本代表の24人を発表した2021年6月の記者会見ですでに危機感を述べていた。