忙しく働きながら視野を広げるために何ができるか、仕事で失敗をして落ち込んだときはどうすればスムーズに立ち直れるのか……。ビジネスパーソンが直面する難問に経営学者の入山章栄さんが答える――。

※本稿は、さわぐちけいすけ、入山章栄『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(日経BP)の一部を再編集したものです。

本業+副業
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経営学的にみて副業は大きな価値がある

副業をする人が増えていますが、本業の合間を縫って他の仕事をするのは、大変なこともありますよね。

でも、経営学的には、副業をやることには大きな価値があります。それは2つの理由からです。

まず、副業をすると、働くことそのものへのモチベーションが高まる可能性があります。現実には、多くの会社勤めの方々は、必ずしもモチベーション高く働けるとは限りません。

これを説明するのに、経営学では「職務特性理論」(Job Characteristics Theory)というものがあります。要は「自分が仕事の全プロセスに関わっている」「仕事の成果が相手の役に立っていると実感できている」「自分のやった成果にフィードバックがある」などの状況だと、人はモチベーションが上がる、というものなんです。いわゆる「仕事の手応え」ですよね。

でも、それなりに大きな企業では仕事の分業化が進んでいるので、社員が「組織の歯車」となりがちで、この手応えがないんです。すると、人はモチベーションを落としていくんですよ。

そう考えると、副業は多くの場合、自分で仕事のプロセスの大半に関われるし、お客さんからの手応えも伝わりやすいですよね。だとしたらモチベーションは湧きやすいはずなんです。

1人でできるダイバーシティ

第二に、僕が経営学者として副業の最大のメリットだと思うのが、「イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人内多様性)」が高まることです。ダイバーシティというと「ひとつの組織に多様な人が集まっている」イメージですよね。でも、実はダイバーシティって、1人でもできるんです。いろいろな仕事を通じて知見、能力、経験の幅を広げていけば、自分のなかにそれらの多様性を取り込むことができるからです。

「1人ダイバーシティ」を実現するとは、言い換えると、遠くの新しい知に触れる「知の探索」をやり続けることです。認知心理学をベースにした経営学の基本前提は、「人はそもそも認知が狭い」ということです。人間だから、当たり前ですよね。私たち一人ひとりが認知できる世界は、誰でも大して大きくはないのです。だからこそ、遠くの幅広いことを経験すると、本業以外に視野・認知が広がり、やがてそれが成果につながり得るんです。そして、本業と異なることをやる副業は、その典型なんです。