「一番」とは、被害者宅を訪問しキャッシュカードや現金を受け取る「受け子」。「二番」がその被害品を一番から受け取り、キャッシュカードの場合はATMから現金を引き出して回収役に渡す「出し子」。その現金を回収したり運搬したりするのは「三番」、あるいは「ライダー」などと呼称されている。
特殊詐欺の指示役だった木村は、一~三番などを手配し、別の詐欺グループが被害者を騙した詐欺の案件と結び付ける手配役を担っていた。
逮捕された実行犯の後輩が木村との関係や居所を供述したのだろう。ある日、数人の警察官が自宅にやってきた。室内には「三番」から受け取ったばかりの札束が袋に入れられ、置いてあった。
「健康食品の購入者リスト」で電話をかけていく
木村は2年ほど前、嘘の電話をかける「かけ子」をやった。その世界では「プレーヤー」と呼ばれる。
「上の人」から指示を受け、木村は関東地方の、あるターミナル駅に向かった。言われた通りの場所へ行くと、初対面の男が待ち受けていた。男はワンボックス車を指さし、「これに乗って」と言った。
「乗り込むと、スマホを渡されました。その画面には個人名、住所、電話番号が記載されたリストが表示されていました」
リストのヘッダーには、誰もが知る健康食品の商品名があった。テレビCMなどで大々的に広告が打たれているあの商品だと木村はすぐに分かった。そしてそのリストが、その健康食品の購入者一覧表だと気付いた。ほかにも、ある雑誌の購読者リストや、通販商品の購入者リストなど、さまざまな「リスト」が手元に送られてきた。
木村を含め乗り込んだのは3人。車が走りだした。
「その日に電話する相手は既に絞り込まれていました。対象者の住所の近くに『一番』『二番』を配置しておくわけです。その調整を担当していたので、全体像は分かります。騙す電話の会話が始まるのと同時並行で、現場の一番、二番の人間を適宜、動かしていました。そうした細かい手配は車の中のまとめ役である『班長』が担当します」