いわゆる「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺の実行犯とはどんな人物なのか。神奈川新聞の田崎基記者の著書『ルポ特殊詐欺』(ちくま新書)より紹介しよう――。(第1回)
都市道路で車を運転する人々
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「約3カ月間、月から金までやって、約500万円」

青森、福島、群馬、新潟――。

「ずっと高速道路を走り続けるんです。そうすると、警察は電波を追えないから。たまにスマートフォンのSIMカードを川に捨てて、入れ替えて痕跡を消していきます」

木村航(仮名、逮捕当時22歳)は、2021年、特殊詐欺の指示役として窃盗と詐欺の罪で逮捕・起訴され、懲役3年執行猶予5年の判決を受けた。

逮捕、起訴されなかったが、実際には指示役だけでなく、詐欺の電話をかける実行部隊「かけ子」にも手を染めていた。淡々と具体的な手口を明かす。

「黙々と電話をかけ続けるのです。まるで普通の営業電話の仕事みたいですよ。3列シートのミニバンの中で、互いの声が聞こえないようにそれぞれ列に分かれて『作業』します。だいたい3人1組で、『班長』と呼ばれるまとめ役の指示に従います」

高速道路を走り続け、夕方になると地方都市のビジネスホテルに偽名で泊まる。月曜日から金曜日まで移動し続け、電話をかけ続ける。土日は自宅へ帰り、月曜日にまた集合し車に乗る。

「約3カ月間、毎週やり続けて報酬は総額500万円ほどでした」

捜査の網から逃れようとあの手この手を駆使し、証拠もことごとく隠滅していく。被害者宅を直接訪問する「受け子」やATMで現金を引き出す「出し子」といった実行犯の逮捕は捜査の端緒となることが多い。