バッシングを苛烈化させた「フレンチに遅れる」という報道

2019年11月の書類送検に合わせるような形で、上級国民バッシングをさらに苛烈化させた報道があった。「フレンチに遅れる」というテロップをつけ、一部のテレビ局が事故を報じたことだ。

事故当日、幸三が妻と昼食を取るために、レストランに向かっていた事実は間違いがない。しかし、向かっていた先は「町の洋食屋」ともいえるようなカジュアルなレストランであって、フランス料理を専門に出す店ではなく「フレンチ」と呼ぶには違和感があった。また「遅れる」と、あたかも昼食に急いでいたことが原因であるかのように報道されているが、夫婦馴染みのレストランで、たとえ遅れたとしても問題はなく、十分な余裕があったと考えて良いのである。

「捜査関係者によると」という前置きで流れたこの報道は、事故の原因となった理由があまりに身勝手で、幸三が「上級国民」であるという印象を決定的にし、再び世間からの苛烈なバッシングを引き起こした。

阿部恭子『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)
阿部恭子『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)

次から次へと一方的な報道が出るたびにSNSでは炎上を繰り返し、このような状況に家族は悩まされていた。

「重大な事故を起こしたのでやむを得ないとは思いますが、メディアの虚偽報道や過剰報道には心を痛めています……」

目にしたくはない報道も日々、飛び込んでくる。それでも長男は、社会人として日々のニュースから目を背けるわけにもいかず、SNSの書き込みについても日々確認しなければならなかった。世間の人々の心無い言葉に胸を痛めていたのだ。 

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