実態が明らかにされていなかった「加害者家族」の現状

2014年より、私が代表を務めるNPO法人、World Open Heart(以下、当団体)は、実態が明らかにされていない全国の交通事故加害者家族に関する調査を行ってきた。

交通事故は、死亡事故であってもメディアスクラム(集団的過熱取材)が発生するケースは稀であり、家族が抱える問題は、被害者への対応や加害者とどのようにかかわるべきかといった身近な対人関係が中心となっていた。ところが2015年頃から、認知症の高齢者ドライバーによる事故報道が全国で相次ぎ社会的関心を呼ぶようになり、年末になると、交通事故の特集を組む番組からの取材依頼も増えるようになった。

事件報道の影響によって転居を検討しなければならない家族も増え、加害者家族の悩みは年々、深刻化しつつあった。本件は、高齢化社会に伴い増加する高齢者ドライバーの問題への関心が、高まりを見せていく最中に起きた。

この突然の大惨事に、当団体の加害者家族ホットラインにはコメントを求める取材依頼とともに、高齢者ドライバーがいる家族からも連日、相談が相次いだ。

「もし、同じような事故が起きたらどうすれば……」
「あの事故のご家族はどうなってしまうんでしょう……」

こうした電話に紛れて、長男からの電話があった。

「なぜこんなことになったのか、これからどうしたら良いのか……」

睡眠も食事も、まともに取ることができないという。電話の声だけで、憔悴しょうすいしきった状況は十分に伝わってきた。

高齢者マーク
写真=iStock.com/banabana-san
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「事故直後に息子に電話した」はデマだった

「事故を起こしてしまって、今から病院に行くという電話を父から受けました」

長男が父親から電話を受けたのは、携帯電話に残った着信記録によれば、事故発生から55分後である。ところが事故翌日、「容疑者(幸三)は『事故直後』に息子に電話をした」と報道され、これによって、救助活動もせずに真っ先に息子に電話した行為が非人道的だと、世間から猛烈なバッシングを受けることになった。

長男が警察の事情聴取の際に聞いた話では、事故1分後には近くを走っていた白バイが到着していた。当時の写真によれば、救急車も10分後には到着して救助活動が始まっていたのだ。長男への電話は、父親が病院に搬送される寸前のタイミングだったという。

事件直後の幸三の様子について、「人をいっぱいひいちゃった、とパニックになって息子に電話をかけた」と、新聞や週刊誌が報じたが、長男が受けた電話では、幸三はパニックにおちいっている様子はなかった。さらに、ウェブ情報の消去や事故の揉み消しを息子に依頼したのではないかなど、息子が犯罪の隠蔽いんぺいをしたような言説がネットで飛び交うようになった。