家族にまで向けられる制裁

「自宅の電話は鳴りやまない状況でしたし、ネットの反応を見る限り世間の憎悪は強くなる一方で……、警察には逮捕してくださいと言いました」

こうした家族の感情とは裏腹に、家族も不逮捕に協力したという批判は止まなかった。

「車庫入れが上手くできず、何度も妻から注意されて切り返していた」とも報道されていたが、運転経験がない妻は、車庫入れについて指示できるような能力はなかった。運転については一切を夫に任せており、駐車場に着くと待たずに先に部屋に戻っているのが常だったため、そのような事実はあるはずがないと妻は言う。

また駐車場自体が、回転テーブルがあるような非常に狭いところで、そもそも何度も切り返しが必要な場所だった。体力の衰えを自覚し、自ら免許を返納すべきだったと道義的責任を批判されることは致し方ないが、事故直後の報道は恣意しい的に、幸三に不利で悪質性を強調する情報だけが報道されているようにさえ感じた。
 

車を運転するシニア
写真=iStock.com/GCShutter
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いまでもネット上にはデマが拡散されている

説明不十分で炎上を招いた報道もあった。

「飯塚幸三は足を悪くして通院していたが、運転免許を返納する考えはなかった。事故を起こした4月中に新車の購入を検討していた」というような、一見、事故を起こしてからも新車を検討していたかのように読める曖昧な文章が配信され、「こんな大惨事を起こしておいて新車の検討か!」と火が付いた。

実際には、車を乗り続けるなら安全装備の充実した車の方が良いと考え、3月に購入検討を進めていたという話だった。日に日に過激になる報道と相まって、ネット上には多くのデマが書き込まれ、バッシングの燃料となっていった。拡散速度は極めて速く、デマと言えども事件の評価に多大な影響を与えていた。