すると、「はっきり、おかしなことが起こっている」という証拠が次から次へと出てきました。ある一群の人たちの学力が低下している、文章の理解力が低下している、うつ状態になる人たちが少なからず出始めた──などです。

それでも、パソコンやスマホの使用につきまとう避けられないリスクを知る人は、研究者や意識の高い人など、ごく少数に限られていました。

仕事でパソコンと長く向き合う人は、目がしょぼしょぼしてぼやけてくるわ、指が痛くなるわ、手首が重くなるわ、肩が凝るわと実体験していますから、注意して休息を入れ、遠くを見たり軽い体操をしたりします。仕事なのだから、身体への負担はある程度やむをえない、とも思っているでしょう。

ところが、そんな自覚がない子どもたちは、思うがままにスマホやゲームに浸かりきってしまいます。子どもがスマホを長時間使う危険性、学力や理解力を低下させてしまう悪影響を考える人は、保護者を含めて当初はほとんどいませんでした。

この状況はまずい、と考えた私は『スマホが学力を破壊する』『スマホが脳を「破壊」する』と題した本を18年と19年に出しました。日本では、まだほとんど誰も警鐘を鳴らしていないころでしたが、それでも遅すぎたか、と思っているくらいです。

勉強する子もしない子も、スマホを使えば「学力低下」

子どもたちの学力を、スマホが確実に“破壊”している。

しかも、保護者や教師をはじめ大人たちが「そりゃ、スマホをやりすぎれば、成績はいくらか落ちて当然でしょう。試験前にはスマホを控えめにしなくちゃね」などと安易に思っているより、はるかに深刻な悪影響が子どもたちの学習に及んでいて、彼らの日常を浸食しているのです。

──この衝撃の事実に私が最初に気づいたのは、平成25(2013)年度に宮城県仙台市で実施された「標準学力検査」と「生活・学習状況調査」の結果を目にした瞬間でした。

まず、グラフをご覧ください。仙台市立中学校に通う全生徒2万2390名を対象とした学力検査と、生活・学習状況の調査データをもとにつくったものです。

縦軸は、実際に教室でおこなった数学テストの平均点を示します。横軸は、スマホの平日1日の使用時間を示します。左端の「まったく使用しない」(0時間)から、右にいくほど1時間刻みで使用時間が長くなり、右端は「4時間以上」と、6つのグループに分けてあります。

使用時間は、携帯電話やスマホを平日どのくらい使っているか生徒にアンケート調査した回答、つまり生徒たちの自己申告によります。