「危険、汚い、きつい」の3K仕事と言われていた
社員が好きや。お客さんは大切や。
従業員には気持ちよく働いてもらいたい。私はいつもそう思っています。だからといって、甘えた気持ちになってはいかん。生産性を上げなくてはならんし、お客さんの目線を忘れてはいけない。
うちの従業員はまかないで、好きなものを作って食べてもいいことになってる。だからといって、焼きめしにエビを10匹も入れたり、ラーメンに焼き豚を10枚も載せたりして食べるようなことは絶対にやらせない。従業員がお客さんに出す以上のモノを作って食べてはいかん。お客さんにしてみたら、「この店の従業員はおかしい」となる。お客さんの目線をいつも感じていろ、ということです。
数年前まで、王将の仕事は「危険、汚い、きつい」の3Kだと言われた。だけど、みんなが一生懸命、鍋を振って、頑張ってやってきたから、お客さんが評価してくださるようになった。
うちの店長に必要な資質はいくつかあるが、しいて言えば行動力。数字とデータを読んで、「よし、うちの店は昼のサラリーマンが多い。定食をたくさん作ったろ」と思ったら、次の日から定食を並べる。知恵を集めて、すぐに行動を起こすこと。次は部下のことをわかる力。パートさんもアルバイトも含めて、自分のところにいる人の性格と行動を読む。それによって、仕事場の配置を考えていくことや。
人間の値打ちは、やさしさと愛嬌にある
最後が愛嬌。これは大事。店長いうんは、部下を引っ張っていく存在や。あれやってくれ、これやってくれ、と指示しなくてはならない。上に立って人に指図する人間は人間性を問われる。
「この人の言うことは信用できる。この人についていったら何かいいことがある」と部下に思わせなくてはいけない。部下のなかにファンをつくらなくてはいかん……。
そんなときに必要なのが愛嬌や。愛嬌のある人間は絶対、得をする。僕は人間の値打ちはやさしさと愛嬌にあると思う。
……こう言っていた大東さんこそ愛嬌のある人だった。いつも無料券をポケットに入れていて、相手が驚くくらいたくさん渡す。餃子の無料券をたくさんもらっても、ひとりでは絶対に食べきれない。そこで周りの人にあげることになる。
大東さんはそこまでわかっていて、「うちの店、どこでもいいから、食べてみてくれ」と言っていた。餃子や料理の自慢は聞いたことがなかった。客と従業員を大切にする人だった。人間と人間の命を大切にする経営者だった。