料理人のケンカの仲裁ばかりしていた

王将の第1号店を出したのは1967年、京都の四条大宮店でした。私はその店では鍋は振らんかった。創業者の義兄から、「王将はチェーンにする。お前は経営の勉強をしろ」と言われたからです。毎日、売り上げの数字を見て、経営の勉強をしました。最初の店を出してから7年間で、うちは直営が15店、フランチャイズが3店のチェーンになりました。ただし、あの頃は「チェーン」と呼べるような組織ではなかった。

店長はすべて雇ってきた料理人だったので、店ごとに味がバラバラで、統一感がなかった。しかも、料理人が辞めたら、店の味つけも変わってしまう。四条大宮店の餃子はおいしいけれど、山科店の餃子はまずい、などと言われていた。

それに、あの頃の料理人でしょう。荒くれもんばっかりや。客の前でもケンカをしたし、社員旅行には鉄の棒まで持っていって暴れよった。僕はケンカの仲裁ばかりしていたんや。でも、昔の料理人なんて、みんなそんな感じですよ。私はつくづく、自前の料理人を育てなきゃいかんと思ったもの。

赤字のときもボーナスだけはちゃんと出した

人を大事にするとは、経営者の懐よりも、従業員の懐を考えるということ。ですから、うちはこれまで一度もボーナスを出さなかったことはない。赤字のときも、株主配当は取りやめたが、ボーナスはちゃんと出した。パートさんにも決算ボーナスを出すし、アルバイトさんにも大入袋をあげる。

人を育てるというのは、相手の立場になって考えるということやな。その反対が利己主義。自分さえよければいいと思う人。そういう人はうちでは絶対に店長になってほしくないね。自分だけがよければいいと思ってる人はすぐにわかる。周りの人はついていかないから。

接客もまた相手の気持ちになってサービスする。そして、今、王将の最大のテーマは接客力の強化にある。飲食業の評価は商品力だけでは決まらないから、どうしても接客力を高めていかなくてはならない。接客を向上させるため、外部から講師を呼んだり、店長を集めて合宿したりしては研修を重ねています。

従業員が不機嫌な顔をするのがいちばんいかん

研修で、僕が強調するのは、お客さんに対する感謝の気持ちや。

「ああ、お客さんが来てくれた。やっと来てくれた」という気持ちが顔に出るような接客をしろと言っている。

おかげさまで、王将にはたくさんのお客さんが来てくれるようになりました。注文が立てこんで、忙しさに追いまくられることも多い。そんなふうに忙しくなってくると、つい、不機嫌な顔をする店長や従業員が出てくる。それがいちばんいかん。

そんな店で料理を食べるお客さんの身になってくださいな。不機嫌な従業員には声をかけにくいし、だいたい、料理がちっともおいしく感じられない。だから、僕は「初心を忘れるな。お客さんが来てくれたことをありがたいと思って仕事をしろ」と繰り返し、言ってる。