血の汗、血のしょんべんを流しながら働いた

人間には個性や持ち味がある。型にはめて管理したら、やる気がなくなる。うちの会社は個性派の集団で、いわば動物園みたいなもの。そんな個性豊かな従業員がついてきてくれるのも、僕が想像を絶するくらい働いてきたからだろうね。

僕は本部で夜中まで仕事をして、それから店に行って、従業員が休んでいる間に、朝までかかって掃除をしたことが数えきれんほどある。朝になると、店の鍋で湯を沸かして体を拭いた。そんなこと、なんぼでもあるよ。血の汗、血のしょんべんを流しながら働いた。うちの従業員はそれを見てる。だから、会社はまとまった。

お客さんが店で食べるときは雰囲気が必要や。包丁の音がして、鍋を振ってる料理人が目の前にいて、おいしそうなにおいが漂ってくるから食欲が湧く。だから、うちではオープンキッチンにしてる。

厨房で忙しく働く料理人たち
写真=iStock.com/beijingstory
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お客さんがいちばん上にいて、底辺が僕や

2000年のことだが、うちの会社は危機だった。470億円の負債を抱えて、つぶれるかどうかの瀬戸際や。僕はそれから3年間は財務の立て直しに精を出し、そして原点回帰を訴えた。店を改装してオープンキッチンを徹底し、作り置きやセントラルキッチンから加工済みのメニューを運んでくるのをやめさせた。そして、店長の自主性を重んじることにした。以来、売り上げが伸びるようになり、借金はほとんどなくなった。

結局、飲食業は人や。人がやる気になったら行動は変化する。経営者がやることはその動機づけだけ。よそさんは社長がいちばん上にいるピラミッド組織だが、うちはまったく逆。お客さんがいちばん上にいて、次が従業員、そして、業者やフランチャイズがいて、底辺にいるのが僕や。経営者は主役とは違います。主役はあくまでお客さん。

不況でも好調な会社はいくつかあります。ユニクロさん、ニトリさん、任天堂さん……。いずれも、いい会社です。うちはそうした会社と並べられますが、そこまで立派ではありませんし、また、大きく違うところがあるんです。

上司は部下に仕事を伝え、導く伝道師であれ

それはユニクロさんや任天堂さんは商品力があれば、やっていける会社です。だが、王将は違う。いくら餃子がおいしくても、店が汚くて、料理が出てくるのが遅かったら、お客さんは「なんだ、この店は」と機嫌が悪くなる。接客や店の雰囲気がよくなければ、「おいしい餃子」とは思ってもらえんのです。

だから、店長の役目はおいしい料理を作ることだけではありません。自分で中華鍋を振りながら、接客をし、店の雰囲気を明るくする。そして部下の管理も行う。店長の仕事はたくさんある。

そこで、うちでは店長教育に重点を置いていますし、店長を大切にしています。

僕は店長を集めた合同会議では、「上司は部下に仕事を伝え、導く伝道師であれ」とつねづね言っています。怒鳴る上司は独裁者。部下は委縮する。管理するだけの上司は部下からなめられる。上司は、まずは接客でも何でも自分でやってみせること。率先垂範でなくてはならない。