「本社はボロボロでいい。建物には金をかけない」
10月28日、京都府警の山科署捜査本部は福岡刑務所で服役中の工藤会系組幹部を殺人、銃刀法違反の容疑で逮捕した。
大東隆行社長(当時)が撃たれたのは2013年12月19日。京都駅から車で20分ほど走ったところにある王将フードサービスの本社前だった。
「本社」と書いてあると、立派な建物を思い浮かべてしまうが、同社の本社は住宅街のなかにある倉庫を改築したような建物だ。来客は玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて、入っていくのである。
それは「本社はボロボロでいい。建物には金をかけない」のが大東さんのポリシーだったからだ。
わたしは2009年から1年かけて『なぜ、人は「餃子の王将」の行列に並ぶのか?』(プレジデント社)という本を作った。
大東さんは自身の生い立ちや社長になるまでのことを初めて話してくれた。それまで彼は「テレビに出るのはええけど、本は絶対に嫌や」と言っていた。
そんな大東さんがなぜ本を出すことに同意したかと言えば、プレジデント社の汗ばかりかいている編集者が汗をかきながら何度も頭を下げたからだ。
「王将の人間は、血の汗を流しながら働いてきた」
大東さんは「汗」に弱い。
「自分たち、餃子の王将の人間は血の汗を流し、血のしょんべんを垂らしながら働いてきた」からだ。
できあがった本には、CoCo壱番屋の創業者、宗次徳二さん、TSUTAYAをやっているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の増田宗昭さん、日本画家の千住博さんが登場してくれた。
ココイチの宗次さんは「私の趣味は早起きと掃除」と言った。大東さんの趣味とまったく同じだ。
CCCの増田さんは「売れる商品とは顧客価値を考えたものだけ」と言っている。餃子の王将の料理はまさしくそれだ。
日本芸術院会員の千住博先生は「王将の餃子は2浪していた頃の希望の味だった」と語った。
3人が載るページを大東さんに見せたら、「ごっついことやったなあ。申し訳ないな。餃子の無料券を贈らんといかん」と頭をかいていた。
大東さんは「餃子の無料券」をくれる人だった。あの頃、わたしと汗ばかりかいている編集者は無料券を手に、友人知人を集めて餃子の王将へ行った。餃子はもちろんのこと、肉と玉子のいりつけ、カニ玉、天津飯(塩ダレ)、天津麺と玉子ばかりを汗をかきながら、食べた。