「僕は自分のことを社長と思ったことないよ」

取材は朝の6時前から始まった。大東さんの出勤時間は午前6時30分だったが、それよりも早く来て、本社前の道路に水をまいて掃除していたからだ。水まきをしていると、近所の人たちが出てきて、大東さんに挨拶をしていた。撃たれた日は雨だったという。もし、晴れていたら、近所の人たちがいたから、犯人は凶行をためらったかもしれない。

王将フードサービスの社長だった大東隆行さんが殺害された京都市山科区の本社前=2022年10月28日午前、京都市山科区
写真=時事通信フォト
王将フードサービスの社長だった大東隆行さんが殺害された京都市山科区の本社前=2022年10月28日午前、京都市山科区

大東さんは掃除の後、執務に取りかかる。とはいっても社長室にいることは少ない。昼の間は店舗を回っていた。時には自ら厨房に立って餃子を焼くこともあった。現場主義の社長だった。口癖はひとつ。

「僕は自分のことを社長と思ったことないよ」

以下はそんな大東さんの言葉である。

オープンキッチン、店内調理にこだわる理由

王将は安いだけの店ではありません。手作りにこだわり、それぞれの店は店長の裁量に任す。現場主導の会社です。そして、店舗はオープンキッチンにして活気あふれる雰囲気にしている。

どれも創業の頃からやってきたことで、うち独自のやり方です。原点を重んじて努力してきた結果が今の不況の時代にも好成績となっているのでしょう。

例えば手作りへのこだわり。セントラルキッチンで調理した冷凍の食材を使うと味が似通ったものになってしまい、他の飲食チェーンと差別化ができなくなる。うちでは餃子のあん、皮、それから麺類の麺はセントラルキッチンから運んでいますが、あとは全部、店で作っています。(現在は餃子を工場で調製)肉はスライスしたものを運ぶけれど、野菜はキャベツでも玉ねぎでも、丸のままで店へ持っていく。

なぜ王将は店ごとに違うメニューがあるのか

うちの従業員は全員、料理人や。よそさまとはそこが決定的に違う。冷凍したものを温めて出すのではなく、料理人がちゃんと料理を作る。だから、野菜は店で切る。カットした野菜は使いません。

王将は1号店から店については店長の自主性に任せている。だから、店によって出すメニューが違う。

よその外食チェーンは本部がこれを売りなさい、あれを売りなさいといった管理をする。

それで、数字が上がらないと、もっと頑張れ、と本部が店長を怒る。しかし、何でもかんでも本部が決めてしまったら、店長は工夫する余地がなくなる。それはよくない。うちでは店長が売れると思ったら和食でも洋食でもフランス料理でも何のメニューを出してもいい。僕は「かまへん、好きにやり」と言うだけ。ただし、売れないとダメだし、約40品目のグランドメニューは変えてはいけない。それ以外のところで創意工夫せよ、ということや。