「仲がいい=心理的安全性が高い」ではない

このことは、大学生がグループワークなどで話し合う様子を見ていると、如実に感じ取ることができます。

一見、彼らは、仲がよい間柄で、お互いによいコミュニケーションをとれているように感じます。しかし、「仲がよいこと」と「心理的安全性が高いこと、低いこと」は、実は「別次元の問題(別軸の問題)」です。

次の図表1に見るように、縦軸にメンバー同士の「仲がよい/悪い」をとり、横軸に「心理的安全性が保たれている/いない」をとると、論理的には、次の①~④の4つの象限が生まれます。

【図表1】心理的安全性と仲の良し悪しにおける4象限
イラスト=『話し合いの作法』より

①仲がよく、かつ、心理的安全性が保たれている
②仲がよいけれど、心理的安全性は保たれていない
③仲が悪いけれど、心理的安全性が保たれている
④仲が悪く、かつ、心理的安全性も保たれていない

このうち、④の「仲が悪く、かつ、心理的安全性も保たれていない」のは論外です。③の「仲が悪いけれど、心理的安全性が保たれている」というのは、現実には、なかなか起こりえません。

本来は、①の「仲がよく、かつ、心理的安全性が保たれている」ことが理想的ですが、一般に大学生が陥りがちなのが、②の「仲がよいけれど、心理的安全性は保たれていない」空間です。一見仲がよさそうに見えても、「こんなことを言うと和を乱すかもしれない」と考え、お互いに言いたいことが言えない状況がそれにあたります。

大学で行われているプロジェクト学習、ゼミナール。読者の皆さんも、機会があったら、昨今の大学をぜひのぞいてみてください。これらの学びの場では、学生が4~5人のチームやグループを組んで課題解決や探究を行っていますが、そこでは一定の割合で、「一見、仲がよいけれど、心理的安全性は保たれていない」グループが散見されるはずです。

心理的安全性は話し合いの基礎資源

また、これは多くの職場においても当てはまることのように思います。むしろ、長期雇用の慣行が支配するこの国では、同じオフィスで、いつものメンバーと、仕事の現場において長い時間を過ごさなくてはならないので、事態はより深刻かもしれません。

中原淳『話し合いの作法』(PHPビジネス新書)
中原淳『話し合いの作法』(PHPビジネス新書)

仕事の現場においても、一見、仲がよさそうにも見えるけれども、本質的な課題については意見を言わないようにする、といったことが横行します。日本の教育現場でも、オフィスでも、必ずしも集団内部で心理的安全性が確保できているとは言えないのです。

しかし、心理的安全性は、話し合いのための基礎的資源です。

話し合いでは、その過程において、話し合いのテーマに対して、お互いに自分の意見を表明する必要があります。お互いに、相手の意見や考えに対してリスペクトを持ちつつ、意見を表明し合うことが重要です。

よって、同調行動への圧力が強く、心理的安全性が低い日本では、話し合いをうまく進めることに困難を感じる人が少なくないのです。