「これで離婚はないな?」
ここまで読んだ読者は、おそらく筆者と同じところに引っかかっていることと思う。それは、狩野さんが子どもを持つ前や家を建てる前などの「人生の分岐点」で必ず、「これで離婚はないな?」と考えることだ。
本人も、「そんなふうに考える私って、おかしいですかね?」と言うが、正直筆者は、「違和感がある」と答えざるをえない。
本人は無意識かもしれないが、理由の1つは、素直に捉えれば、「離婚したくない」という気持ちの表れではないか。事あるごとに「妻のことが嫌いだ」「妻とはわかり合えない」と繰り返す狩野さんだが、これも裏を返せば、「妻のことを愛したかった」「妻と分かり合いたかった」という欲求の発露のように思える。
また、狩野さんは、中学の頃から異性にモテ始め、同性からも慕われていたというが、同性・異性にかかわらず、常に周囲からチヤホヤされるのが普通だった人にとって、一緒に家庭を持った、最も身近な存在である妻に慕われないのはつらいことだろう。
「自分を好きになってくれる女性としか付き合わない」ということは、「自分を好きでいてくれる女性がそばにいないと寂しい」と言い換えられるかもしれない。
結婚してからというもの、妻以外の女性と付き合っていない狩野さんにとって、「妻に愛されなくなること=寂しいこと」となる。だから事あるごとに「嫌いだ」「わかり合えない」と繰り返す一方で、妻のために昼食をとるのを待ったり、車のタイヤをスタッドレスに履き替えておいたりして、妻の愛を取り戻そう、関係を保とうとしたとも考えられる。
こうした深層心理と同時に、人生の分岐点で必ず、「これで離婚はないな?」と考えていたもう1つの理由は、「妻より先に自分が離婚を切り出すんだ!」と強く心に誓っていたからという可能性も考えられる。
結婚して1年後、妻から離婚話を切り出された狩野さんは、寝耳に水だった。妻に対して、「この俺が、仕方なく結婚してやったんだ」という気持ちがあった狩野さんは、見下していた妻からの三行半を突きつけられ、ショックだったに違いない。以降、二度と妻から離婚を切り出されないように、人生の分岐点で必ず、「これで離婚はないな?」と自分で自分に言い含めるようになったのかもしれない。