「たった一度」「4分」の運動でいい

大人の脳がたちどころに運動に反応するように、子どもの場合でも運動すると、たちまち脳の働きがよくなって理解力が増す。9歳児が20分運動すると、1回の活動で読解力が格段に上がったというデータがある。たった一度の運動で、子どもの学力に変化があったのだ。

とはいえ、そのメカニズムはまだ詳しくは解明されていない。だが子どもが運動をした直後に、物事に集中できる時間が長くなることは立証されている。つまり、「運動によってどれだけ子どもの集中力が上がったか」が、学力向上の謎を解くカギだろう。

では、子どもの集中力を維持するには、最低どのくらい運動をすればいいのだろうか。それを探る調査が実際に行われている。結果は、まさに驚くべきものだった。

10代の子どもたちが12分ジョギングしただけで、「読解力」と「視覚的注意力」がどちらも向上したのである。そして、その効果は1時間近くも続いた。

それだけではなく、たった4分(これは目の錯覚ではないので、ご安心を)の運動を一度するだけでも集中力と注意力が改善され、10歳の子どもが気を散らすことなく物事に取り組めることも立証された

運動で高まる能力は、注意力や記憶力だけにとどまらない。今の時点では、4歳から18歳までの子どもが運動すると、ほぼすべての認知機能が高まることがわかっている。複数の作業を並行して行うことや、ワーキングメモリー、集中力、決断力──こういった能力がすべて向上するのである。

これが学校なら、算数、読解、問題解決の能力に関する科目の成績が伸びることが目に見えてわかるだろう。

学力優秀国・フィンランドの「歩数」調査

子どもが運動から得る恩恵は、成績が上がることだけではない。ストレスにも強くなれる。

フィンランドでは、小学2年生258名を対象にして、こんな調査が行われた。子どもはストレスの多い状況にどう反応するか、ストレスに対する抵抗力と活動量には何らかの関係性があるのか、というものだ。

とはいえ、9歳児が自分の活動量を正確に答えられるはずもないので、研究チームは子どもたちに歩数計をつけるように指示した。そしてストレスに対する抵抗力は、疑似的にストレスを与える方法によって測られた。

具体的には、大人でも大きなストレスを感じる状況――時間制限を設けて計算させたり、ほかの子どもたちの前でプレゼンテーションさせたりしたのである。

結果を見るかぎり、ストレスに対する抵抗力と活動量の間に関係があることは間違いなかった。毎日たくさん歩いた子どもは、あまり歩かなかった子どもに比べてストレスを感じにくく、精神状態も安定していたのである

それだけではない。高いストレスとなる時間制限つきの計算やプレゼンテーションを終えた子どものコルチゾール(ストレスホルモン)の濃度を測ると、よく歩いた子どもは、あまり歩かなかった子どもに比べて低かった。

この結果は活発に身体を動かす子どもがストレスに強いことを、明確に裏づけている。また、ストレスが学習によい影響をおよぼしそうにないことからも、運動が学力向上の一助になることはおわかりいただけるだろう。