“頭がよくなる”は「どこ」が「どうなる」ことか

科学は、運動によって大人の脳の機能が向上することを立証し、また、子どもの脳でも同様の変化が起きることも証明した。そしてさらに、「学習脳」の仕組みも明らかにしている。

脳は、主に「灰白質」と「白質」に分けられる。

学習の舞台「肺白室」と「白質」
出典=『運動脳

「灰白質」は外側の層で、大脳皮質ともいわれる。厚さは数ミリほどで、実際は灰色というより、ややピンクがかった淡い色をしている。これは、血液を供給する血管があるためだ。

脳のとてつもなく複雑な営みの舞台こそが、この灰白質。情報の選別や記憶の保管は、この場所が行っている。

そういった「魔法」が繰り広げられることを思えば、灰白質が相当なエネルギーを消費することもうなずける。何しろ灰白質は、脳内で占める容積の割合は40%ほどでありながら、脳全体が必要とするエネルギーの90%を消費しているのである。

いっぽう「白質」は、灰白質の内側に層をなしている。あらゆる情報は、ここから各領域に伝えられる。

白質は、神経細胞から伸びる「軸索」という長い線維が集まってできている。神経細胞は、この軸索を使って情報を伝え合っている。いうなれば灰白質がコンピュータで、白質はいくつものコンピュータ同士をつないでシグナルを伝えるケーブルといったところだろうか。

この軸索は、「ミエリン」という物質(ケーブルのカバーだと思ってほしい)で何重にも取り巻かれている。ミエリンは絶縁体として電気信号がショートするのを防ぎ、情報が混ざり合うことなくスムーズに細胞に伝わるように助けている。

灰白質と白質のどちらが欠けても、私たちの身体は正常に機能しない。灰白質が主要な仕事を一手に引き受けていることは確かだが、もし軸索が適切にシグナルを伝えられなければ、脳は正常に機能しないのだ。

この関係は、非常に筋が通っている。コンピュータの電子回路がすべて正しくつながっていなければ作動しないのと同じだ。

「理系科目」と運動の相関関係

それでは、運動をした子どもの脳でとくに変化が見られたのは灰白質だろうか、それとも白質だろうか。じつは、どちらにも変化が見られたのである

科学者たちが最初に気づいたのは、海馬の灰白質が成長していることだった。海馬は灰白質の一部である。

とはいえ白質も、やはり運動やトレーニングによって強化される。子どもたちが運動を定期的に行った場合、白質にも変化が見られたのだ。灰白質と同じく、白質も組織が密集して厚みを増していた。つまり機能性がより高まったということだ。

白質が複数のコンピュータをつなぐケーブルだとすれば、子どもたちの脳内のデータ転送を行うケーブルの働きが運動によって強化されたということになる。つまり、情報が領域から領域へと効率よく伝わるようになり、脳全体の働きがよくなったのだ。

認知機能が灰白質で処理されていることは確かだが、白質も決して無関係ではない。白質は、とりわけ子どもたちの学力に関わっていると考えられている。

小学校に通う子どもたちの脳をDTIという最先端の医療機器でスキャンした結果、脳の左側の白質が「数学的な能力」に関わっていることがわかった。

算数を含む学力が上がった理由が、運動で白質の働きが強化されたためだと断定はできないものの、それを信じるだけの根拠は充分にある。

興味深いことに、運動が白質におよぼす影響、つまり脳のケーブルの働きが強化されるという効果は、決して子どもにかぎらない。

運動やトレーニングをすると、年齢を問わず白質の機能が強化されるという。とりわけ大人の脳の白質と運動量は、かなり関係があると考えられている。

だが、白質の機能を高めるために、激しい運動をする必要はない。座ってばかりいないで、毎日をできるだけ活動的に過ごす。これだけでも、かなりの効果がある。長距離マラソンをする必要はここでもないのである。