立体的な学問領域を平面世界に落とし込むコツ

学問領域は立体的であり、三次元・四次元の世界である。それを棚という平面=二次元に落とし込むのだからかなりの無理はある。それなのに最近は棚番の並び通りの直線=一次元で考える書店員が増えたように思う。しかしそれでは売りたい本を効果的に展示できない。目の高さには必ずその棚で最もよく売れる本を置きたいが、そのためには平面パズル的思考が必要である。また棚は各々で完結させたい。そもそもお客の目は、最下段右端の次は隣の棚の最上段左端には行かないからだ。

線ではなく、せめて面で考えたい。抽象的な話では何のことやらわかりにくいと思い、できるだけ具体例を挙げていたら冗長になってしまった。以下、説明を省いて実例のみをいくつか挙げていく。なぜそうしたのかは各々考えてみてほしい。

・考古学の棚はつくるが、そこには考古学の本全てをまとめる訳ではない。
・戦国大名の並べ順は、九州から中国・四国・近畿・中部・関東、最後に東北である。
・中世環境史と身分論は近くに置く。
・『日本鉱山史の研究』や『日本灌漑水利慣行の史的研究』は通史的な研究書だが近世史に置く。
・川岡勉と西尾和美は並べて置く。
・黒田俊雄の次には平雅行・田中文英を置く。
・同じ民俗学者でも、小松和彦は妖怪の棚でよいが宮田登はそうではない。
etc.

棚づくりは読者と本の出会いの演出

三砂慶明編『本屋という仕事』(世界思想社)
三砂慶明編『本屋という仕事』(世界思想社)

こうしてその時々には考えてつくった棚であっても、学術は日々新しい研究が生まれ少し遅れて本も出る。その中には既存の枠組に再考を迫るものもある。また担当者の経験値が増えるとともに今まで見えていなかった本のつながりが見えてくることもある。そういった時はそれまでの考え方や並べ方にこだわらず、躊躇なく棚の枠組を組み替えなければならない。

棚づくりは担当者の思い込みと自己否定の繰り返しであり、棚は生きているのだ。そしてそれは丁寧に生かしてやらないとすぐに陳腐化してしまう厄介な生き物なのである。棚番等によってがんじがらめに縛られた棚はさしずめ「標本」といったところだろう。

書店には単品の目的買いのお客も多いが、必要だったり興味のある分野の本を「見に」来るお客も多い。棚は読者と本の出会いの場であり、棚づくりとはその出会いの演出に他ならない。

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