「プロ」を満足させることが売り上げにつながる
書籍『本屋という仕事』では棚づくりの基本を3つ挙げているが、本稿ではそのうちの1つを紹介する。
棚の大きな利点は、ある分野の本を探している時、複数の本の比較検討を実物を見比べながらできることである。何冊もある本の中から、お客自身が検討の上で選んだという自己満足を付加価値として、書店は本を売っているのである。
そのためには、書店が揃えた選択肢がお客にとって妥当なものでなければならない。専門書の顧客はたとえ初学者であっても書店員よりははるかに「プロ」である。またそこには買切だとか常備外(常備寄託という契約により版元が書店に出荷するセットに入っていない本であること)だとかいう書店の都合は関係がない。学説上重要な本、これはある程度行き渡っているので書店にとっては回転の悪い本かもしれないが、これが選択肢に入っていない棚に満足できるプロはいない。
「この本が抜けている」→「他にも抜けている本があるに違いない」→「今ある本より良い本があるかもしれない」→「他店を探そう」となり、棚の売上につながらない。つまり顧客の棚に対する信頼感が専門書を売るためには何より大事なのだ。その分野で重要な本は単体としてはそれほど売れなくとも、その棚で売上を立てるためには必要な本なのである。「これもある、あれもある、ここまで揃っているのならここから選ぼう」と思わせたいのだ。
棚に顧客がついているのを実感できた瞬間
最近は事故短冊(出版社または取次が、品切等の理由を記入して書店に戻す発注書)を不要とする書店が増えてきたと聞く。いちいち見ている暇がなく、システムやネットで調べればわかるとの理由らしい。
版元によって様々ではあるが、大概在庫が1桁になれば客注でもない限り、品切扱いにして出荷しないことが多い。しかし電話等で直接問い合わせると1冊なら出せるということも少なからずある。何でもかんでもという訳にはいかないが、重要と思われる本は表向き品切でも棚に結構入れていた。そうするために事故短冊はとても便利なのだ。
また取次が扱わない学会関連の直販の本も、交渉して置かせてもらえるものは仕入れていた。顧客同士の会話で「ここはよそでは絶対見かけない本が普通に並んでいる」と話すのを聞いた時は嬉しかったものだ。それはそういったことをわかってもらえたからではなく、棚に顧客がついているのを実感できたからである。