複数の医療機関を使い分ける「はしご受診」

診察券の枚数が表すように、日本では診療科ごとにいろいろな医療機関にかかることがごく普通のこととして習慣づいています。耳鼻科はこの医院、皮膚科はこのクリニックというように、複数の医療機関にかかる。そのこと自体に、あまり疑問を抱くことがありません。それだけに、「はしご受診」のようなことも起こりやすいのです。

「はしご受診」とは、一つの病気でいくつもの医療機関を転々と渡り歩くこと。「あの先生の言うことを聞いていても、ちっともよくならない。もっとよい治療法があるはずだ」「○○クリニックはとても評判がいいから、あっちの先生にも診てもらおう」というように、自己判断で受診を中断して別の医療機関にかかったり、重複受診したりすることです。

もちろん、一人のお医者さんの言うことだけを聞いていればいい、ということはありません。症状の判断が難しい病気や珍しい病気の場合などで、同じ専門科の別の医師や、同じ病気を扱っている別の診療科の医師の診察を受けて解決する場合は多くあります。

医者のかかり方を冷静に考えてみたほうがいい

また、わかりやすい例として、がん治療におけるセカンドオピニオンもそうでしょう。自身の担当医の話がどこか納得できない、あるいは、別の治療の選択肢がないかどうかを知りたいとき、現在の担当医とは別の医師の意見を聞くことは、患者さんの権利として認められています。

奥真也『医療貧国ニッポン』(PHP新書)
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しかし、セカンドオピニオンは、今後も現在の担当医のもとで治療することが前提になっていて、その他にも明確なルールがあります。決して患者さんが自己判断だけで行うものではありません。

一方、「はしご受診」では、当然ながら、新しいところにかかるたびに初診料がかかります。検査を重複して受ければその費用もかさみますし、それだけ身体にも負担がかかります。異なる薬を多重に服用することになれば、健康の回復どころか、逆に身体によくない影響を及ぼしてしまう怖れもあります。

あまり自覚のないまま、さまざまなかたちで医療の無駄遣いが行われている場合がある、それが日本の「一面の真理」です。

医療の仕組み改革の必要性があると同時に、日本人は自分のためにも、日本の未来のためにも、もっと「医者のかかり方」について冷静に考えてみたほうがいい、私はそう強く思っています。

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