アメリカと日本では「医者にかかること」のハードルがまったく違う。医師・医学博士の奥真也さんは「アメリカは医療費が猛烈に高く、風邪でも数万円、病院の手術では数百万円にもなる。日本は国民皆保険制度のおかげで気軽に受診できるが、この制度を続けられるとは限らない」という――。

※本稿は、奥真也『医療貧国ニッポン』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

日本人に死をもたらすのはがんと生活習慣病

日本社会全体の疾病構造が大きく変化してきたいま、我々は病気や健康問題に対して主体的に向き合う必要があります。

戦後から1980年ごろまで、日本人の死因原因の1位は脳血管疾患(脳卒中)でした。ちなみに、戦前までは感染症でした。

脳卒中で病院に運ばれる患者さんを救うためには、脳卒中の救急医療体制やCTやMRIのような画像診断が必要です。その治療のカギを握っていたのは医療者でした。主体は医師の側にありましたから、患者さんとその家族はパターナリズムの強い医師にすべてお任せしていてよかったのです。

やがて降圧剤の開発や高血圧対策が効を奏して、脳卒中で亡くなる人は減少します。代わって、悪性新生物(がん)と、生活習慣病が原因と考えられる心筋梗塞などの心疾患が増加しました。

がんはさまざまな要因で発症すると考えられていますが、生活習慣や食習慣の影響を受けることが多いところから生活習慣病ということができる、という見解もあります。

太った腹を気にする男性
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生活習慣病を治せるかどうかは患者次第

いまでは、がんは早期発見できれば治療できる病気になっていますが、生活習慣病というのは病気になる要因も患者さんにあれば、治療の成果も患者さんにあります。医療者側が教育入院で生活習慣の改善プログラムの指導を行っても、薬を出しても、患者さん自身が途中でやめてしまったらよくなっていきません。

そういう意味で、主体は患者さん側にあるのです。現代人に多い生活習慣病は、自分自身できちんと管理できるかどうか、セルフケア、セルフメディケーションの意識があるかどうかが大きい病気なのです。

なぜ途中で改善習慣や薬をやめてしまう患者さんが多いのかというと、検査で生活習慣病だとわかっても、その時点では症状がほぼないからです。つらい症状がなく、困ったり苦しんだりしていないから、切迫感がなく、油断してしまう。本気で取り組めないのです。

自覚症状を感じはじめたときには、病気がかなり進行しています。生活習慣病が怖いのは、自覚症状が出るようになってから元に戻すような治療法はまだない、というところにあります。

つまり、油断しがちな状況のときに、強い意識で自己管理をして予防に努めなければ未来に暗雲が垂れ込めてしまう病気です。それこそ「自分の健康は自分で守る」という意識を持って行動しなければいけないわけです。