医療の役割は「治す」、あと2つは…

医療の役割とは「治す」ことだけではありません。私は、今後、医療の役割が3つに大別されるようになっていくと考えます。

①「治す」……病気を治療する。病院の医師や専門医が中心になって行う
②「支える」……病気を抱えた状態でも苦痛なく生活できる、療養できるように支える。かかりつけ医や看護師が中心となる
③「防ぐ」……病気にかからないように未然に予防する。医療者の指導を受けながら個人が意識的、主体的に行う

いまは皆さん、「治したい、治したい」という思いで病院に行ったり、クリニックに行ったり、そこの境目が混然一体としています。病院は「治す」治療をするところ。クリニック、診療所、医院などは患者さんの生活を「支える」医療をするところと考えると、役割分担がはっきりすると思うのです。

さらに、主体的に病気の治癒や健康維持に関わっていく意識を持って、病気になってから「治す」のではなく、病気になるのを未然に「防ぐ」。病気になる前に予兆を発見する。それ以前に、そういう病気にかかるリスクを遠ざける。

予防にお金をかけることが普通になるといい

「防ぐ」医療の将来的イメージとして、予防専門の診療科、健康増進科のようなものができるようになると思います。歯医者さんに「予防歯科」という治療方針があるように、身体の「予防医科」が一つの医療のかたちとして認識されるようになるといい。いまは医療機関に行くのは病気になった人ですが、そこは病気ではない人たちが予防のために行く場所になります。

日本の医療財政がここまで逼迫ひっぱくしている状況から考えて、予防が保険適用になる可能性はきわめて低い。だから、そこは自由診療です。健康を維持するために自分でお金をかける。フィットネスクラブにお金を払うのと同じように、予防するために自分で積極的にお金をかけることになるでしょう。

また、集積されたビッグデータは、どういう行動や生活習慣がどういう病気を招くリスクを高めるといったデータを、いまよりもっと細かく、正確にはじき出して教えてくれることになるはずです。

一人ひとりが、セルフケアの力を高める努力をしていく。それが、生活習慣病の予防や改善、重症化予防、健康の維持になっていきます。予防は健康の長期戦略なのです。