健康状態が良い人ほど管理職に昇進していた

スターリング大学のクリストファー・ボイス博士らのイギリス全土の民間企業の就業者も含んだデータを用いた分析の結果、次の2点が明らかになりました(*3)

1点目は、「もともと健康状態が良い人ほど管理職に昇進していた」というものです。管理職への昇進が健康を改善する傾向については十分に確認できませんでした。

また、オーストラリアのデータを用いたモナッシュ大学のデビッド・ジョンストン教授らの研究では昇進前後の生活全般の満足度の変化についても検証しており、「昇進によって生活全般の満足度が影響を受けていないこと」を明らかにしています(*4)

管理職昇進後にメンタルヘルスが悪化

2点目は、「管理職に昇進した3年後にメンタルヘルスが悪化していた」というものです。

管理職への昇進には賃金や職権の拡大といったプラスの側面と、業務負担や責任の増大といったマイナスの側面があります。マイナスの影響が強ければ健康状態が悪化する恐れがあり、実際にその傾向が確認されたのです。

上述のジョンストン教授らの研究でも同じく「管理職に昇進した24~30カ月後にメンタルヘルスが悪化した」という結果を得ています。

ノートパソコンを頭にかぶり、白旗をあげている男性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

これ以外にも、スイスのデータを用いた研究で昇進によって自己診断による健康度と抑うつ症状が悪化したことを示す結果もあります(*5)

以上の分析結果から明らかなとおり、民間企業の就業者も含めたデータを使って分析すると、管理職での就業は健康、特にメンタルヘルスの悪化を引き起こすと考えられます。

これらの結果は管理職で働くことの負の側面の影響が強いことを示しており、ショッキングです。

それでは日本の研究ではどのような結果が得られたのでしょうか。

(*3) Boyce, Christopher, Andrew Oswald. 2012. Do people become healthier after being promoted? Health Economics 21(5): 580–96.
(*4) Johnson, David, Wang-Sheng Lee. (2013). Extra status and extra stress: are promotions good for us? Industrial and Labor Relations Review, 66(1): 32-54.
(*5) Nyberg, Anna, Paraskevi Peristera, Hugo Westerlund, Gunn Johansson, Linda L Magnusson Hanson. 2017. Does job promotion affect men's and women's health differently? Dynamic panel models with fixed effects. International Journal of Epidemiology, 46(4):1137-1146.